2020 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける占有訴権の廃止とその影響-占有概念の現代的意義-
Project/Area Number |
19K01393
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
香川 崇 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (80345553)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 占有訴権 / 占有 / レフェレ |
Outline of Annual Research Achievements |
フランスでは、2015年2月16日の法律によって占有訴権制度が廃止された。本研究は、占有訴権制度廃止に至るまでのフランス判例学説及び占有訴権制度廃止後における占有保護の根拠に関するフランス学説を検討するものである。2020年度は、2015年2月16日の法律の趣旨を探るべく、2015年までの占有訴権制度とレフェレ制度の展開を検討した。 フランスにおける占有とは、所有の意思のある占有のことであり、賃借人などによる所持(detention)と区別されていた。占有訴権には、占有妨害排除訴権、占有妨害予防訴権、占有回復訴権があった。このうち、占有回復訴権は、民法典制定直後から、占有者のみならず、所持者にも認められていた。1975年に至って、所持者も上記三つの訴権を行使できるようになった。この改正により、各占有訴権の成立要件は近づいてきたものの、各訴権は、異なった性質の紛争を裁くという特徴を維持していた。 占有回復訴権は、①他人の占有に反するような主張を伴う紛争や②特定の範囲において社会平和を脅かす可能性のある攻撃的行為を裁くという特徴が維持されていた。もっとも、レフェレ制度の発展とともに、占有回復訴権の実務上の価値を失われていった。その理由として、実務的には、レフェレ手続の方が占有回復訴訟よりも迅速であること、理論的には、占有回復訴権に②の側面も孕むという両義性があることが指摘されていた。 レフェレと占有訴訟は異なるものと解されているが、占有訴権に関する紛争については、レフェレによる救済を求めることができた。そして、レフェレの裁判官は、紛争解決に必要な処分を命ずる命令を発令することができる。レフェレ手続の裁判官は、この命令において、紛争解決のための各種処分を選択することができ、その選択は、同裁判官の専管事項とされている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、フランスでの現地調査を予定していた。しかし、フランスへの渡航が制限されていたため、断念せざるを得なかった。また、東京の国立国会図書館にて立法資料の収集も予定していたが、所属大学による出張制限が課されたため、これも実現しなかった。 以上の状況を鑑み、昨年度は、文献の購読やインターネット上の資料収集による調査を実施した。幸いにも、夏前には海外図書の流通が再開し、必要な文献を入手することが可能となった。また、多くの大学図書館が複写依頼に協力的であったため、フランス法に関する資料を複写で入手することができた。そのため、レフェレの手続に関する研究を深めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2015年2月16日の法律制定後におけるレフェレ制度の変容、占有保護の根拠、占有概念の意義について検討する。フランスでの現地調査や国立国会図書館等での資料調査が困難であることを鑑み、本年度も、国内外の民法や民事訴訟法等の体系書等を購入し、文献調査を中心に研究を進めることとしたい。なお、富山大学図書館には、フランスの判例集が一部しか所蔵されておらず、フランスの博士論文がほとんど所蔵されていないため、国内外の図書館に対して、郵送にて現物貸借または複写の送付を依頼する予定である。 そして、昨年度までの研究も踏まえて、日本法への示唆を研究する。そのため、日本の民法や民事訴訟法に関する体系書等を購入し、文献調査することとしたい。
|