2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K01401
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
伊藤 栄寿 上智大学, 法学部, 教授 (30454317)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 可分債権 / 準共有 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、可分債権が非分割とされる場面の法理を明確化することを試みるものである。具体的には、次の3つの課題を設定している。(1)給付が可分である債権にもかかわらず、多数の債権者に分割帰属しないとされている事案の収集・整理を行うこと、(2)(1)で抽出された裁判例において、非分割とされた可分債権にいかなる法理が適用されているのかを整理・検討すること、(3)(2)の検討をふまえて、可分債権が非分割とされる法理を提示することである。 研究2年目である2020年度は、2019年度に分析した(1)の結果を前提に、(2)の課題に取り組んだ。 理論的に可分債権が準共有されうるのかという問題は、おもに預金債権の共同相続の場面で議論され、最高裁判例が出されてきた。その際、伝統的に、共同相続財産の法的性質(共有か合有か)からの検討がなされ、また、近時は、預金債権の性質(預金契約の要素)からの検討が活発になされてきた。 これに対して、本研究の問題関心からは、可分債権が複数の債権者に帰属する場面を横断的に検討することが必要である。そこで、まず、①共同相続の場面において、債権が共同相続人(複数債権者)に帰属する場合、続いて、②共有財産から生じた債権が共有者(複数債権者)に帰属する場合を検討した。両者を区別するのは、複数債権者が登場するに至った原因が異なり、また、従来の議論の展開も異なるためである。 検討の結果、①の場面について、実質的に債権が準共有されたとしても、分割請求を認めることにより、当然分割と同様の結論を実現することができ、当然分割を認めるべき積極的理由はないことが明らかになった。②の場面についても、各共有者に当然分割帰属させるべき実質的理由はない。むしろ、当然分割原則を否定し、可分債権を準共有とした上で、分割請求権の行使を認めることが適切である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、裁判例において、非分割とされた可分債権にいかなる法理が適用されているのかを整理・検討することにあった。 研究実績の概要で示したとおり、最高裁判例は、可分債権が共同相続された場面と、共有物から可分債権が生じた場面に分類できるところ、両者の場面での分析・検討を行うことができた。 ただ、新型コロナウィルスの影響により、ドイツへの渡航等を行うことができず、ドイツ法についての分析が遅れていることから、「やや遅れている」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、可分債権が非分割とされる場面の法理を明確化することを試みるものである。2020年度は、研究の第2段階として、非分割とされた可分債権にいかなる法理が適用されているのかを整理・検討した。 2021年度は、研究の最終年度であり、可分債権が準共有されず当然分割とされてきた場面とその根拠を明確化したうえで、可分債権が準共有とされる場合の意味内容(効果等)を明確化することにより、可分債権が非分割債権とされる場合の基準・根拠を明確化する。 上記検討にあたっては、民法研究者から構成される研究会で報告・議論をし、可分債権の準共有法理についての最終結果報告を行う。また、ドイツ法について、最新学説・裁判例の状況を把握するため、可能であれば現地での資料収集を行いたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、予定していたドイツ渡航、および、研究会への参加が不可能となったため、次年度使用額が生じた。2021年度におけるドイツ渡航、および、研究会への参加旅費として使用予定である。
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