2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01404
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
長坂 純 明治大学, 法学部, 専任教授 (90222174)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 原始的不能 / 債務不履行 / 契約の尊重 / 契約の終了 / 契約法規範 / 契約責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年4月1日より施行された改正民法における契約法規範の特質と責任法理の考察として、第1に、「原始的不能と債務不履行責任」を検討した。これまで、原始的不能な給付を目的とする契約は無効であること(原始的不能ドグマ)が伝統的理解であったが、改正民法は、それを理由に契約は必ずしも無効とはならず、また、契約当事者に生じた損害に対して債務不履行ルールが適用できるものと改めた(民法412条の2第2項)。そこで、この問題は、契約締結段階の法律問題に尽きるものではなく、契約の成立、契約責任の構造も関わる重要問題であるとの問題意図から、①原始的不能の給付を目的とする契約の有効性が認められる論拠、②そこでの不履行責任の帰責根拠・性質に関して、同様の法理を持つドイツ民法の理論動向を参考にして考察した。 第2は、改正民法における契約法規範の原則である「合意原則」、「契約の拘束力原則」との関係から「契約の尊重」思想の意義・機能を考察した。改正民法が、契約法を中心に据えた「契約債権法」の構築を目指したものであることから、本考察は、改正民法の契約法規範の特質を解明する上で重要である。ここでは、まず、「契約の尊重」思想をめぐる国際的債権法の動向とわが国での議論状況を明らかにした。次いで、改正法における具体的な規律の中で、同思想がどのように機能しているのかを明らかにした。そのうえで、「合意原則」および「契約の拘束力」原則との関係から、「契約の尊重」思想の意義・機能を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、民法(債権関係)の改正を踏まえ、これまでの契約法規範がどのような原理・原則に基づき変容され、その中でとりわけ責任法理の構造はどのように捉えられ、今後展開されていくのかを明らかにすることにある。 そこで、2019年度は(当初予定した順序とは若干の変更はあるが)、第1に、改正民法における契約債権法の基本原理を解明することを課題にし、一定の成果を上げることができたといえる。改正民法は、契約当事者間の合意をできるだけ尊重すること、すなわち、契約関係において当事者が設定した規範を尊重することを基本に据える。このことは、責任規律(債務不履行ルール、解除、契約不適合責任など)からも明らかになる。 第2に、原始的不能法理の展開を解明した。これは、従来の契約成立論や契約の効力、さらには債務不履行にも深く関わる問題であり、契約規範変容の特徴的な規律である。今後の本研究にとっても出発点とされる論点であると考える。ドイツ法との比較を試みたが、ドイツでは、2002年の債務法現代化法において原始的不能給付を理由とする契約無効論からの決別をしたが、そこでの損害賠償責任をめぐっては激しい議論がある。このような動向は、本研究でも中心的論点となる、債務不履行責任の性質決定にも関わってくる。私見では、原始的不能に対する責任の性質決定は困難であり、一種の法定責任として捉えざるを得ないと考えるに至った。この点は、今後の研究においても検証されるべき論点である。
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Strategy for Future Research Activity |
第1は、契約の性質および典型契約制度の意義・機能に関して研究を進める。基本的な問題意識は、合意は、典型契約規範において機能する概念なのか、あるいはあくまで当事者が設定した契約規範の問題として位置づけられるのかである。また、契約は、類型的存在なのか、あるいは当事者の合意として捉えるべきなのかという問題である。今日、類型・構造につき多種多様な契約が台頭ししている中で、合意・契約・典型契約制度を改めて検討してみる必要がある。このような論点に関しては、2020年2月末から3月はじめに実施したドイツでの研究活動においても示唆を受けた。 第2は、契約不適合責任の性質・構造に関する考察である。担保責任をめぐっては、これまで議論があったところであるが、契約責任説に立脚した新規定の構造・性質を検討する意義がある。不適合責任に独自の効果、債務不履行責任との関係、責任の期間制限、売買と請負との異同などが、論点となる。 第3は、契約責任と不法行為責任の関係である。責任根拠としての「契約の拘束力」と過失責任主義の関係如何を問う意味で、重要な論点となる。 第4は、責任法理に関する判例理論の動向把握である。改正民法の目的の一つは、これまでの判例法理の明文化にある。そこで、新規定の中で、従来の判例法理がどのように展開され得るかを解明する。 以上の考察は、いずれも国内外の文献・資料の利用、および国外研究者へのインタビューが必要である。研究費の多くはこれらに費やす予定である。なお、本研究は、改正民法を素材にしているが、改正間もないこともあり、今後必要な論点が出てくる可能性もある。
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Causes of Carryover |
2019年度に実施した出張旅費について差額が生じたことから、その分を次年度において使用することとした。 2020年度も、研究費の多くは、関係文献・資料の購入費および、研究討議のための出張費に充てる予定である。
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