2019 Fiscal Year Research-status Report
終末期関連法における患者の権利保障―ルクセンブルク、ベルギー、フランスの比較
Project/Area Number |
19K01434
|
Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
小林 真紀 愛知大学, 法学部, 教授 (60350930)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 安楽死 / 精神疾患 / 認知症 / 治療中止 / 未成年者 / 意思決定 / ベルギー法 / フランス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究では、一方で、ベルギーで近年安楽死の実施件数が増加している要因を検討し、他方で、フランスで2016年法の実施後に提起されている治療中止をめぐる問題を判例の分析から導き出した。 第一の論点に関して、ベルギーの連邦監督評価委員会が公表した報告書や、生命倫理諮問委員会の答申などを分析した結果、近年になり、まず、精神疾患や認知症の安楽死が徐々に増えていること、次に、多重疾患の患者の安楽死が顕著になっていることが分かった。新たに生じている問題点として、精神疾患の患者の自律的な意思決定の可能性や、死が切迫していない患者の精神的苦痛の測り方などが挙げられる。ベルギーでは、最近になって、法律の規定のみではカバーできない部分を医師会の指針や各医療機関のガイドラインで補足するようになっている。ただし、すべての問題が解決されるわけではない。たとえば、精神疾患の場合、不治性を判断する基準が曖昧であり、識者によっては、精神疾患には「不治である」と断定できるものはないとの指摘もある。また、多重疾患の場合、苦痛の発生原因を特定すること自体が難しい。これらの問題は、法律の適用当時は想定されていなかった新しい論点であり、さらに個別に検討する必要がある。 第二の論点について、治療中止の根拠や手続を示すフランスのクレス・レオネッティ法施行後に出された行政裁判所の判決を分析した。治療中止を法律で明文化することについては透明性の確保という視点から意義はあるものの、法はすべてのケースを想定できないから裁判所の介入は必須である。フランスでは、近年、とくに未成年者の治療中止に関して家族(親)と医師の間で見解が一致せず争われるケースが増えている。法律が定めているのは手続のみであるため、実際に紛争が解決されるためには、家族と医師との間の良好な関係の構築と、そのための法文に記載されない配慮の徹底が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベルギーの安楽死法が抱える課題については、2019年9月に上智大学で行われたシンポジウムで報告する機会を得た。現在、そこで得られた知見をさらに精査し、成果を論文にまとめている途中である。公表は2020年夏を予定している。また、フランスのクレス・レオネッティ法施行後の問題点に関しては、日本生命倫理学会第31回年次大会にて一般演題の中の一部として発表することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
安楽死法についてはわが国では、欧州といえばオランダの例がしばしば取り上げられ研究成果も報告されているが、ベルギー法について詳細に検討したものは少ない。しかし、すでに施行から18年がたち、2年ごとに出される報告書も相当な分量になっているため、こうした資料をもとに実態を分析することは有意義である。そこで、2020年度はベルギー法の分析をさらに継続して行う。とくに、精神疾患、認知症および多重疾患の患者の安楽死の問題は、安楽死法を制定する場合には避けて通れない問題であり、ベルギー国内でも見解の分かれる論点であるため、個別に検討することにしたい。 他方で、隣国のルクセンブルクにおける安楽死法の適用状況についても、分析を行い、ベルギー法との比較(主として共通点)を行う。ルクセンブルクでは、そもそも人口が少ないことも相まって、安楽死の実施件数が多くなく、実態を明らかにすることは困難が伴うと予想されるが、現地で専門家にインタビューを行うなどして、新たな知見を得ることに努める。 なお、現在、ルクセンブルクにて在外研修中であるが、欧州におけるCovid-19感染拡大の影響により、移動が制限され、国内外での調査が難航している。上記研究計画については、今後の社会情勢に応じて変更を加え、柔軟に対応していきたい。
|
Causes of Carryover |
2020年3月にルクセンブルクでの調査・資料収集を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、予定通り実施できなかったため、その分の旅費が未使用となった。これについては、2020年度中に、ベルギーおよび(または)フランスへの出張を予定しており、その際に使用する予定である。ただし、現在、各国で入国・移動制限が行われており、またその規制の内容も国によって異なるため、自由な研究活動を行える状況にない。場合によっては、再度計画の変更を余儀なくされる可能性がある。 他方で、昨年の研究に基づき、あらたにベルギー法について詳細に検討する必要が生じたため、ベルギー法関連の文献の購入およびデーターベースの利用料にも充当する予定である。
|
Research Products
(2 results)