2021 Fiscal Year Research-status Report
終末期関連法における患者の権利保障―ルクセンブルク、ベルギー、フランスの比較
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19K01434
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
小林 真紀 愛知大学, 法学部, 教授 (60350930)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 安楽死 / 治療中止 / 鎮静を受ける権利 / 精神疾患 / 認知症 / 事前指示 / 意思決定 / 患者の権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、主として2つの問題を取り上げて考察した。 第一に、前年度に引き続き、事前指示書に関わる論点である。フランスでは、以前から事前指示書の重要性は主張されてきたものの、作成率は低迷し、その意義の見直しを迫られている。そこで、この点に着目し、とりわけ延命治療の中止・差し控えに関して事前指示書が持ちうる意義について再検討した。結論として、終末期患者をはじめとする「脆弱な人々」を法的に保護するためには、事前指示書のような意思表示の方法について明確に法制化することの重要性は高いといえるが、その場合であっても、指示書の作成の自由を明文で保障する必要があること、指示書の作成自体が法律制定の目的になってはいけないことを指摘した(考察の結果は、愛知大学法学部法経論集227号にて公表した)。 第二の問題は、持続的な深い鎮静に関する議論である。フランスは、2016年に、立法により「死に至るまでの持続的な深い鎮静(SPCJD)を要請する権利」を患者に保障する枠組みを設けた。このような制度は、世界でも類を見ないため、この枠組みがもつ法的意義を検討した。結論として、現実にSPCJDと安楽死との区別が難しい(にもかかわらず、その困難さを十分に検討しないまま立法化した)ことが制度の普及にブレーキがかかっている要因であること、こうした権利を法律によって保障するか否かという論点に囚われすぎず、むしろ、この権利を通じて、いずれ誰にでも訪れる死に向かって、各人が、どのように、苦痛から解放されたなかで生きることができるかという、「生の質」という視点から問題を考える点が重要であることを導き出した(考察の結果は、医事法研究4号にて公表した)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍において、年度を通して外国出張が適わなかったことから、若干の研究の遅れが発生している。他方で、インターネットや各種データベースを駆使して、できる限り現地で収集できる資料と同等のものを入手するよう努めた結果、一定程度の研究成果は上げることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、フランス、ベルギーおよびルクセンブルクの終末期医療に関わる法制度を国別に検討してきたことから、それらの研究結果をもとに、相互に比較研究を行い、終末期医療に関わる法的枠組みを整備する際に必須となる論点を明確にしたい。とりわけ、当初の目的である、患者が苦痛から解放されたなかで意思決定でき、意思表示できない患者の治療中止が適切に行われるために必要な法原理を導き出すことに努める。考察の結果をまとめたものをできる限り早く公表することを考えている。
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Causes of Carryover |
2020年秋にベルギーでの調査・資料収集を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、予定通り実施できなかった。この分を2021年度に実施することを考えていたが、同年度も、各国の入国規制や所属機関の方針により、外国での調査を実施できる状態ではなく、その分の繰り越しが再び発生した。一部については、ベルギー法やフランス法関係の文献の購入に充当した分もあるが、本来は旅費として執行すべきものであり、計画の変更を余儀なくされている。今年度中に、現在の社会状況を踏まえて計画を見直し、適切に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)