2019 Fiscal Year Research-status Report
町村議会議長会未公開資料群データインフラストラクチャーの構築と研究
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19K01447
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Research Institution | University of Niigata Prefecture |
Principal Investigator |
田口 一博 新潟県立大学, 国際地域学部, 准教授 (20376411)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 議長会 / 町村議会 / 議会先例 / 政務活動 / 公文書 / 議長会プロパー職員 |
Outline of Annual Research Achievements |
都道府県域の町村議会「議長会」の活動を把握するため、刊行物の調査と収集、職員へのインタビューを行った。2019年度に把握できたこと、2020年度以降行うべきことは、概ね次のとおりである。 1)議長会の所蔵資料と、所在地図書館・公文書館の所蔵状況を比較すると、議長会の刊行物は図書館・文書館に網羅的に所蔵されていない。また、かつては全国団体が収集していたが、現在では行っていない。→ 議長会所蔵資料の電子アーカイブズを作成することで、議長会・議会研究が飛躍的に進む可能性がある。 2)議長会が毎年、総会議案として作成している「業務報告書」は、全国ほぼ同じ様式・内容で作成され、議長会において永年保存されている。その中には予算・決算とあわせて詳細な事業の経過が記載されており、これまで研究者が資料を入手できなかった議長会長としての議長の活動が明確に記録されている → 議長会を通しての議長の政務活動等を解明できるほか、予算や業務体制の経時的・多議長会間の比較研究が可能となる。 3)議長会プロパー職員研究の必要性 → これまで議長会運営に関わる人事研究は全く存在しないが、各町村議会事務局の機能を代替・支援してきた議長会事務局のプロパー職員がどのように周流し、キャリアを形成してきたかを解明することができれば、最近行われる「議会事務局・職員論」の前提となる方策を検討することができる。 4)議長会と町村会、振興協会等との関係 → 自治会館等の貸館を所有し、保険事業等の収益で運営できる議長会がある一方、各議会からの負担金が主要な財源でそこから家賃を支払わなければならない議長会もある。議長会の財源はまちまちであり、それが人事の独立性や事業内容にもかかわっている。議長会の財源構成は町村会との関係や発足当時の経過が重要であるようだが、それらを比較検討により解明することは、今後のあり方を示しうる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)議長会資料の刊行・所在調査と収集を行った。国会図書館OPACでは議長会発刊資料はあまり掲載されていない。所在地公立図書館には所蔵されていることもあるが、図書形態のものの一部に限られる。そこでまず、古書市場からの収集を行い、岩手県、秋田県、京都府の各議長会所蔵資料の写真撮影を行った。 2)議会関係者への議長会運営、議会先例の形成に関するインタビューを開始した。戦後の議長会創設期に在籍した職員を第1期とすると、現在の古参職員は第3期、標準的な職員が第4・5期にあたる。それぞれの議長会ごとに職員の周流方法は異なり、また、特に平成の合併によって町村数が激減した結果、議長会の予算が急減、職員数も極端に減少し、組織も町村会と合併・融合するなど、非常に大きな影響を受けた。この影響と対応は都道府県によって異なるが、これも比較研究を行う必要がある。 3)日本公共政策学会(2019年6月19日追手門大学)研究大会自由公募セッションIIにおいて「公共政策学における公文書史料とデータアーカイブ」を報告した。公文書学やアーカイブズ学、歴史学の研究成果が公共政策学に取り入れられていないこと、公共政策学を中心に発達してきた「オーラル・ヒストリー」はむしろ公文書史料が研究に有用ではないことから始まったこと等を問題意識とした。現代日本の公文書は律令時代以来の監修が踏襲されており、政策決定の過程の文書が公文書とされなかったのみならず、行政手続法制定後も許可・採用されない文書は「不受理・返戻」されることも続いている。GHQ/SCAP文書など、研究に有用だった「文書」の特徴を示して日本の公文書の作成方法自体に記録としての問題があること、電子公文書システムが使われていても、本来、その最大の意義である校閲・変更履歴記録等が行われていないこと等を示した。市川喜崇・木寺元両氏の討論と会場からの質疑を受け、議論を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
日本公共政策学会研究大会のほか、日本行政学会、史学会等共同研究者を募ったが、議会を対象とする研究者が極めて少ないなか、今のところ賛同者は現れていない。勤務先大学に博士課程がないため、議会に関する研究者が在籍する博士課程を有する大学にも呼びかけたが、多量の原史料を読み込んで行う研究は短期間で成果を出すことが求められる現在の博士課程学生には荷が重いという声もあった。当面有効と思われる推進方策としては、まず、調査で得られた原史料を公開してそこから得られる成果を早急に発表することかと思われる。そのため、2019年度の調査で得られた成果を簡易な形で早期に公開する。(公開を想定していた毎年11月に開催される日本地方自治学会研究大会は、まだ開催自体が未定である。) 本来の研究計画では2020年春から議長会に赴いての資料撮影・インタビューを加速する予定であったが、新型コロナウイルス問題で新たな遂行が難しい。当面、従来の方法を継続することも難しいと思われるので、一点ものではない資料の郵送等による貸与を議長会に依頼し、在宅のまま資料撮影が行えるかを検討したい。(これまでの調査で、事業報告書等は印刷物が複数保管されており、資料収集を行う際の大原則である「資料を持ち出さないない、現地で行う」等を侵すものではないと考える。) 公文書の作成方法を変えることについては、研究上の必要があるからということだけで八世紀初頭の大宝律令以来の行政実務に影響を与えることは難しいであろう。研究側からできる貢献としては、公文書の作成方法を変えることの必要性を周知することと、それによる成果を一般向けに訴えることであろう。研究よりも「運動」ということになるが、実務家向きの研修の機会なども使いながら、公文書の校閲・変更履歴記録を行うことの意義を周知することなどに取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
旅費及び人件費・謝金については、新型コロナウイルス対策による出張等取りやめにより当初計画どおり執行することができなかった。令和2年度以降、事態が収束した後に改めて計画したい。
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