2020 Fiscal Year Research-status Report
Political Economy of Human Capital Formation in South Korea
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19K01451
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
磯崎 典世 学習院大学, 法学部, 教授 (30272470)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人的資本形成 / 韓国 / 東アジア / 経済成長 / 教育 / 労働 / 脱植民地 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,韓国の急速な経済発展の要因として人的資本形成に注目し、非欧米的な発展パターンをとった過程を,日本との比較も含めて比較政治経済学の事例研究として位置づけることである。方法としては,人的資本形成の要となる学校教育の拡大や技能形成システムに着目している。ある段階で有効だった制度が機能不全となり,制度改革をめぐる政治が人的資本形成を左右する点も重視して,研究計画を設計している。 しかし、2020年度は新型コロナ禍で調査・資料収集に大きな制約が生じたため、当初の計画を変更して資料へのアクセスが比較的容易な時期に焦点を絞り,「中等教育の拡大」を可能にした1969年の教育制度改革に至る過程を検討した。 一般的に,植民地への近代教育制度導入は統治に協力するエリート育成が主眼であり,独立した新興国では,高等教育中心の制度を国民の初等・中等教育拡大へと改編する課題があるとされる。しかし日本の朝鮮統治は,京城に帝国大学を設立し高等教育制度を整備した一方で,特に帝国末期には初等教育拡大も推進されており、韓国の初等教育就学率も早い時期に8割に達している。その一方で、中等教育の大衆化は60年代末まで遅れているのである。研究では,植民地期に導入された制度からの改編という観点から,その要因を解明した。先行研究では、植民地期と建国後の制度が断絶されて異なる専門分野で扱われてきたが,本研究では,教育制度の変遷および教育の拡大という問題を総体的に把握し,戦後の発展パターンを日韓比較も含めて検討する際の,初期条件の違いを検討した。 以上の研究活動は,年度内で論文としてまとめるに至らなかったが,脱植民地から建国期の制度構築という問題として,関連する研究会での報告にも生かされており,次年度に本研究の中心課題を解明する準備作業として位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの拡大により,韓国での調査・資料収集が困難になったのみならず,大学での研究環境も悪化して,予定通りに研究を進めるのが困難な状態になった。そのため当初の計画を変更して,入手できる資料を中心に研究を進めた。当初の計画は,近年の制度改革をめぐる政治を中心課題とし,それを検討するために制度形成期を検討するものであったが,新型コロナ禍の資料アクセスや研究環境の制約から,研究は初期制度の分析を中心とせざるを得なかった。研究実績の概要で記したように,2020年度の研究内容自体を成果としてまとめる意義はあるが,当初の計画からは遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の概要に記載した制度形成期の研究を,本来の計画の中心である近年の制度改革まで繋げるためには,やはり現地調査が重要である。今年度の研究で,教育拡大と技術形成システムの変遷や制度改革に関して,オンラインで利用可能なデータを探索したが,デジタル化されて利用可能な資料は,なかなか発見できなかった。植民地期については歴史学の分野での研究蓄積があり,それを二次資料として制度形成期を中心に研究を進めたが,戦後の制度を実証的に分析するためには,現地調査は不可欠だと言える。 当初の研究計画で大きな枠組みと注目ポイントを提示したが,どのケースを取り上げて実証分析するかは資料にも左右される。できるだけ早く調査によってデータを確認し,実証のケースを絞るとともに,全体の議論の妥当性を確認するため,研究会報告を行っていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大により,国内および海外での調査を実施できず,旅費の使用がなかった。さらに資料収集の遅れのため,データ整理等の人件費も発生しなかった。 2021年度は,海外での調査を中心にデータを収集・整理し,それを活用した研究を推進する計画である。もしすぐに海外調査ができない場合は,2020年度の経験を踏まえてオンラインで調達できる資料やデータの発掘に引き続き努力し,現地調査が行えない状況での資料購入や研究環境整備に助成金を使用して研究を遂行する。
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