2020 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける二大政党の分極化は司法をどう変えたのか―下級審裁判官の指名の分析
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19K01452
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岡山 裕 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70272408)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 司法政治 / アメリカ / 大統領 / 二大政党制 / イデオロギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、大統領による裁判官候補の指名の態様に着目して、二大政党のイデオロギー的分極化によってアメリカの連邦レベルの司法人事および司法府のあり方がどう変化したのかを解明しようとしている。先行研究が主に連邦議会上院での承認過程に着目し、また通時的・一般的特徴を明らかにしようとしているのに対して、分極化の影響を解明しようとする本研究では、個々の大統領による指名に焦点を当てる点に特徴がある。 2020年度はアメリカでの在外研究中に学会発表および資料調査を集中的に行う予定であったところ、コロナ禍のためにいずれも不可能となった。個々の政権による指名に着目する本研究課題の遂行には、資料調査を行って政権毎の指名プロセスに関する情報を入手することが重要であるものの、それができなかったため、研究の方向性を修正する必要性を含め、対応を模索しつつ研究を進める一年となった。 そのうえで、大きく二つのアイデアに基づいて検討を進めてきた。第一は、個々の政権について司法人事のみに注目するのでなく、同じ政権の行政官人事のあり方と比較することである。例えば直近のトランプ政権では、行政官の人事がそれまでの政権よりも大幅に遅れたのに対して、司法人事は極めて順調に進められたという違いがあり、その要因を検討することによっても、政権の司法人事の特徴を析出できると考えられる。第二は、政権毎のケース分析と組み合わせる、大統領による個々の指名に関する計量データを用いた分析の拡張である。2021年度以降は、コロナ禍が収束し次第アメリカでの資料調査を実施したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずここまでの検討で、分極化後の司法人事の態様には二大政党で顕著な違いのあることがわかっている。共和党政権は、なるべく明らかな保守派を任命しようとするのに対して、民主党政権は、白人男性以外を任命しようとする傾向が強い。民主党政権についても、候補者がある程度リベラルであることは前提視されているものの、共和党の方がイデオロギーという外部から観察の困難な属性に重点を置いている。それにより、民主党の方が候補者の絞り込みが容易であるなど、両党の政権で人事指名の態様に違いが生じている可能性がある。 コロナ禍もあり、2020年度にはある政権の司法人事のあり方を、行政官の人事と比較するという検討も始めている。この点ではっきりした特徴を持つのが共和党のドナルド・トランプ政権で、行政官の人事に遅れが目立った反面、司法人事の指名は極めて順調に行っている。これがいかなる要因に基づくのかの分析を行って、それが他の政権にもどの程度当てはまるのかを明らかにしたいと考えている。 他方で、裁判官ポストが空いてから大統領による指名までの時間の長さに着目した計量分析については、資料不足もあって突破口を見いだせていない。この点の克服が次年度以降の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
全体に、これまでの検討を継続する形で、大きく二つの方向での分析を予定している。 第一は、二大政党間の違いとイデオロギー的分極化の程度の違いによって、個々の政権の司法人事戦略がどのように影響されたかに関するケース分析である。当面は、収集済の資料および、マスメディアの報道や他の研究者の論考を検討しつつ進め、アメリカへの安全な渡航が可能になり次第現地で資料調査を行いたい。第二は大統領の指名に関する計量分析であり、政権毎の違いに加えて、上で見た政党間の違いが指名の態様、さらには上院での承認のあり方にどう影響したのかの検証を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度予算は、その大部分をアメリカでの在外研究中に学会発表および図書館・文書館調査を集中的に行うための費用として計上していた。これが全て実施不能になったために、多額の次年度使用分が生じることとなった。この次年度使用分については、コロナ禍が解消した後に、それまでできなかった調査や学会発表のための渡航費用として適切に使用する予定である。
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