2022 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける二大政党の分極化は司法をどう変えたのか―下級審裁判官の指名の分析
Project/Area Number |
19K01452
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岡山 裕 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70272408)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 司法人事 / 大統領 / 連邦議会 / 二大政党 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、大統領による下級審裁判官候補の人事指名の態様に着目して、二大政党のイデオロギー的分極化によってアメリカの連邦司法人事および司法府のあり方がどう変化したのかの解明を試みてきた。本年度は、2021年度から継続して、大統領に指名される側の法曹に焦点を当てて分析を進めた。とくに、司法省を中心に連邦行政機関での勤務経験を持つ法曹の指名に注目した。従来からこうした法曹が指名されることはあったものの、オバマ政権以降、顕著にその割合が増え、1割を超えている。それは、(同じ政党の)政権内で働いた人物であれば、政権と考え方を共有しているとみられるだけでなく、その人となりについても政権側が把握しやすいからと考えられる。また裁判官への野心を持つ法曹が、それを意識して政権入りしている面もあるとみられる。 行政官経験者の指名が増えたことは、連邦議会上院での承認のあり方にも影響していると考えられる。二大政党間の対立が深まるなかで、政権の関係者が候補者になることは、ただでさえ対立政党の上院議員の警戒を強めるように働くと考えられる。そればかりでなく、上院での審査を通じて、行政官出身の候補者が政権の政策の策定や執行に関与したことが明らかになることで、候補者が党派的な人物だという印象が強まるとみられる。オバマ政権以降は、大統領の人事指名が承認を得られないケースが増えているが、その背景には、政権の対立政党が上院の多数派を占める時期があったためだけでなく、対立政党から敵対的と受け止められる人事指名が増えたという要因もあるとみられる。 このように、2022年度には、裁判官候補の属性に着目することで、大統領の指名の態様と上院における人事承認の両方のあり方を説明できることが示せたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では、大統領の司法人事への取り組みを各種の一次資料の活用を通じて明らかにしようとしているところ、2020年度にアメリカでのサバティカル中に計画していた各種の調査がコロナ禍のために実現できないという困難に直面した。そのため研究方針の再検討を迫られてきており、一時各政権の司法人事を行政官人事との比較で説明するといった新たな発想での分析を試みてきたが、両者の性格の違いから、十分な成果につながったとは言い難いのが実情である。2021年度からは、指名を受ける法曹側の態様に着目して、それがどのように指名やその後の人事承認につながるのかを考慮することとし、研究実績欄にも記載した通り、とくに行政官の出身者の増加という重要な発見があり、手応えが得られている。 しかし、2022年度も、年度途中まで出入国規制が続いたこと、また夏以降、勤務校での校務のために、アメリカでの調査が困難な状況にあった。そのため、得られた着想を十分に資料を用いて検証するところまで進んでいない。これを受けて、4年間の予定であった研究課題を1年延長することを申請し、認められたところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度には、大きく二つの方向で分析を進め、それぞれについて成果のとりまとめを進めたいと考えている。 第一は、2022年度に本格的に検討を進めた、行政官経験者の司法人事のあり方を、大統領による指名と連邦議会上院による承認の両方の側面について、個々の事例の展開に踏み込み、そこから一般化する形で解明することにある。その際、こうした人事の増えたオバマ政権期以降とそれ以前の政権について、共通性と異質性がどこからくるのかに注目したい。とくに、オバマ政権期の2013年には、上院で多数党が人事承認を行いやすくする形で手続きが変更されている。このことが、これ以降の政権に、行政官出身者を含む論争的な人事を積極的に進める動機付けになったのではないかと考えている。 第二は、そうした人事を含めて、2013年の人事承認手続き変更を経たことで、議会上院における司法人事承認の態様がどのように変化したのかを解明することである。上院の司法人事承認については、かつて盛んに研究が行われていたものの、近年はむしろ大統領による人事指名の段階に研究者の関心が移っている。そのため、承認手続きの変更という歴史的な動きがどのような影響を人事承認にもたらしたのかという重要な問題が、十分に検討されていない。以前よりも上院で不承認となる人事が増えていることからも、上院における承認プロセスに目を向ける必要性は増しているといえる。ここでは、この分野の先行研究の多くと同様、上院である人事が承認されるまでにかかる時間に着目して、それがいかなる要因に左右されるのかを、主に計量的に検討したいと考えている。 これらの方策のうち、二つ目については、やや大きなデータセットの整備が必要となるため、2023年度はすでにとりまとめの見通しの立っている一つ目を中心に進める予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題の経費については、その大部分をアメリカでの調査および学会への参加のための旅費・滞在費に充てる予定であったところ、2020年度以降コロナ禍のためにそれが困難であった。本来、2022年度が最終年度であったが、このような事情から1年の延長を申請して認められたため、次年度使用額については、夏期に2週間程度アメリカで調査を行い、冬期にもう一度調査を行うかアメリカでの学会発表を行うための旅費・滞在費を中心に、有意義に使用する予定である。
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