2019 Fiscal Year Research-status Report
『國體の本義』刊行による文部省の対内務省・対昭和維新運動政策についての研究
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19K01459
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
植村 和秀 京都産業大学, 法学部, 教授 (10247778)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 文部省 / 國體の本義 / 昭和維新運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、『國體の本義』を手がかりとして、政治思想と政治過程の交錯、具体的には、昭和維新運動と文部省などとの関係を解明していくことを目的とする。しかしそのためには、昭和維新運動と総称される思想的な政治運動が、日本ナショナリズムを共通の立場としつつも、思想的な多様性と政治的な複雑さを持つ、という特徴が障壁となる。 そこで、本研究に取り組むにあたって、まずは原理日本社の活動内容の検討から分析を開始することとした。原理日本社は昭和戦前期に、大学批判・大学教授批判を通じて文部行政に直接影響を及ぼそうと試みたのみならず、美濃部達吉東京帝国大学教授への弾劾運動を通じて、天皇機関説事件で大いに活躍した結社であったからである。同事件は結局、文部省に、「不祥事」対応の國體冊子刊行の予算を獲得させることとなった。しかし文部省は、原理日本社など外部の昭和維新運動団体に直接関与させない形で、文部省主導によって『國體の本義』を編纂していった。『國體の本義』編纂の経緯をこのように整理しつつ、このような整理が妥当かどうかも含めて、研究を進めている。 以上の問題意識に即して、5月25日開催の政治思想学会では、政治思想史における反知性主義というシンポジウム論題の下、「近代日本の反知性主義--信仰・運動・屈折」と題して研究報告を行なった。その後、昭和維新運動の当事者資料や内務省などによる同運動を分析した資料についての研究を進めるとともに、国立教育政策研究所教育図書館所蔵の志水義暲文庫の調査を、11月、1月、2月に延べ5日間にわたって行なった。同文庫の調査によって、昭和10年代の文部省の動向についての資料の一部を得ることができ、今後さらに多くの資料を得る見通しが立った。なお、政治思想学会での研究報告は、修正増補して学会誌上で公表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究活動は、1)昭和維新運動の研究、2)国立教育政策研究所教育図書館所蔵の志水義暲文庫の調査に重点を置いて行なった。 政治思想学会での報告では、原理日本社同人による批判の、現代風に言えば反知性主義的な諸特徴を整理・指摘した。ただし、創造的な知性の働きを拒絶するその批判は、否定において破壊的な影響力を発揮する一方、具体的な政策の根拠とはなりがたく、文部省としては対応に慎重にならざるをえないものである。否定的な思想運動と具体的な政策との関係という問題は、この原理日本社と文部行政との関係のみならず、現代の反知性主義的な思想運動と政治実務との関係においても重要となる。そこで、学会での他の報告や質疑の内容を踏まえて、反知性主義という現代の用語をどこまで活用すべきなのか、どのような意味内容で適用すべきなのかについても検討し、研究成果を2020年5月刊行予定の学会誌『政治思想研究』に掲載予定である。 教育図書館では、志水義暲文庫の教学局編纂・刊行事業関係資料中、特に、『國體の本義』編纂過程の資料を重点的に調査した。さらにまた、教学局作成に係る資料中、昭和維新運動についての調査資料、思想運動全般についての情勢分析資料を重点的に調査した。編纂過程でどのような修正が行なわれていったのか、文部省の側で、昭和維新運動や思想情勢について、どのような情報を同時代にどのように把握していたかを確認するための作業である。同文庫には、さらにきわめて多数の資料があり、引き続き調査を実施する予定である。 原理日本社以外の昭和維新運動についても、運動団体が拠点とした雑誌の調査、内務省などによる思想運動情勢分析資料の研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究活動においては、1)昭和維新運動の研究、2)国立教育政策研究所教育図書館所蔵の志水義暲文庫の調査に加えて、3)文部官僚の思想の把握、4)『國體の本義』編纂関係者の思想の把握に重点を置く。ただし、東京所在の教育図書館での調査活動は、感染症拡大への対応状況を踏まえて、必要な期間延期することも想定している。その場合、公刊もしくは公開されている資料、入手済みの資料の分析を中心に、研究を進めていくようにする。また、研究会の開催や発表についても、感染症拡大への対応状況を踏まえて、実施の可否を判断していく。 活動の具体的内容として、まずは東京堂発行の『読書人』誌の誌面分析を通じて、創造的な知性の働きを強烈に拒絶する思想運動の論理を分析する。同誌には複数の文部省関係者が執筆しており、その思想内容や思想的経緯の把握を進めることとする。他方、志水義暲文庫の調査が可能であれば、『國體の本義』以降の文部省の政策に関連する資料を入手し、昭和維新運動との思想的・実際的関係の分析を進めることに活用していく。また、文部官僚ならびに『國體の本義』編纂関係者の思想の把握については、公刊された資料の分析に重点を置くとともに、資料の探索を継続する。 これらの研究活動によって、文部省の昭和10年代の思想傾向を、昭和維新運動のどこに位置付けるべきかを検討する。それとともに、文部官僚たちが、教育現場や國體論での主導権確保をどの程度自覚的な政策目標としていたのかについて、政策動向の検証作業を進めていく。その際、同時代の内務省の動向、内務省と文部省の関係も重要であり、研究の最終年度に向けて、関連する資料の収集と分析も進めていきたい。
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