2020 Fiscal Year Research-status Report
『國體の本義』刊行による文部省の対内務省・対昭和維新運動政策についての研究
Project/Area Number |
19K01459
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
植村 和秀 京都産業大学, 法学部, 教授 (10247778)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 文部省 / 國體の本義 / 読書人 / 原理日本社 / 京都学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、『國體の本義』を手がかりとして、政治思想と政治過程の交錯、具体的には、昭和維新運動や内務省と文部省との関係を解明していくことを目的とする。 2020年度は、『國體の本義』関連の研究を進行させつつ、東京堂発行の『読書人』誌の誌面分析を通じて、1941年創刊の同誌が1942年末頃から極端化し、それまでの科学振興・良書推薦の論調から信念重視・悪書排斥の論調へと変化した経緯を追跡した。同誌の誌面は、書評誌として出版界全体の動向を反映するものであるのみならず、出版統制下に発行される雑誌として、諸官庁の動向を反映するものでもあった。文部省は出版統制の主役ではなかったものの、政策的な積極性を国民読書運動や推薦図書制度で発揮しており、これらは『読書人』誌の趣旨とも関係が深く、誌面にもその関係は現れている。『読書人』誌面を分析した研究成果については、『産大法学』誌上にて2021年度に公表予定である。 なお、2020年度に予定していた図書館での訪問調査は、すべて中止としている。関連する学会・研究会への参加はオンライン形式とし、2月9日には主催する研究会で「『國體の本義』編纂と文部省の戦略について」と題する研究報告を行なった。 『読書人』誌の分析を通じて把握できたことは、『國體の本義』が提示する「無難な」方向性が多方面に影響を与えている可能性である。外国の文化は排斥せず、日本的に活用すればそれで良いとの同書の主張は、一方で読書や出版の間口を広げる効果があり、他方で活用が日本的でないとの弾劾を行なう根拠を与えたように思われる。この可能性も含めて、2021年度には『國體の本義』の同時代への位置付け作業を進めていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究活動は、1)『読書人』誌面の研究、2)昭和10年代の文部省の動向調査に重点を置いて行なった。 前年度の研究成果として、「近代日本の反知性主義―信仰・運動・屈折」と題する論文を『政治思想研究』第20号(5月1日発行)で公表した。ここでは「反知性主義」という現代の用語の意味内容を整理し、その視点から原理日本社同人の活動を分析する一方、『読書人』誌上で1943年に盛り上がった京都学派排斥活動を紹介した。本年度は、『読書人』誌面の内容を1941年の創刊から1944年の廃刊まで検討する作業を行ない、1942年までの科学重視の誌面が1942年末以降急速に変容し、現実との関係が実質的に失われていく経緯を追跡した。その研究成果は、「書評誌『読書人』の国内思想戦―1940年代前半日本の言論空間研究」と題する論文として、2021年度刊行の『産大法学』に順次分載される予定である。 『読書人』の誌面分析や他の研究活動を通じて確認できたことは、昭和10年代の文部省の政策が積極的な特徴を強く持つことである。『國體の本義』編纂事業のみならず、社会教育局の読書事業にせよ宗教局の宗教団体法制定にせよ、総力戦の役に立つ姿勢が多方面で前向きに打ち出されている。ただし、『読書人』誌での京都学派排斥に文部官僚が参加したことの意味については、それが文部省内の変化を反映しているのかどうか、確認作業を継続している。 志水義暲文庫の調査については、入手済みの資料の調査を進めるとともに、教育図書館の許諾を得て一部資料をオンラインで閲覧させて頂いた。また、昭和維新運動の運動家たちにおける政治的変革のイメージ、原理日本社と文部省の関係、文部官僚と『國體の本義』編纂関係者の関係や思想についての研究も引き続き進行中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究活動においては、1)昭和10年代の文部省の思想と政策、2)その中での『國體の本義』の位置付け、3)文部省内外の諸関係の把握に重点を置き、政治思想と政治過程の交錯の具体像を明らかにしていく。なお、国立教育政策研究所教育図書館の一般利用が再開されれば、志水義暲文庫の訪問調査を行なう予定である。同文庫の資料調査は2019年度にかなり進められたものの、2020年度は実施できなかった。同図書館には、研究課題に関連する同時代資料が他にも多数収蔵されており、再開時には複数回訪問することを計画している。 活動の具体的内容として、これまでの研究成果を踏まえて、文部省の思想と政策を同時代の維新運動や諸官庁との関係の中に位置付ける作業をさらに進めていく。とりわけ、『國體の本義』が学校教育現場の教育指導のみならず、社会教育局の読書指導や宗教局の宗教団体指導にも関係付けられるかどうかについて検討を進める。これらの検討、ならびに、同時代の思想や政策の整理に際しては、『國體の本義』の内容上の問題点として、西田幾多郎が早くに批判したように、東洋文化と西洋文化の活用を主張するのみで、どのようにすれば活用可能なのかの検討がないことに注目して行なうこととする。それはおそらく、文部省では科学局が担当することとなる科学技術行政とも関連する問題点であり、『読書人』誌面の分析も踏まえて、本研究での思想内容分析で最重要の視角となるものである。 研究会の開催や研究報告、学会での研究報告については、オンライン形式も含めて積極的に行なっていく。具体的には、本研究課題に関する研究会を複数回開催するとともに、学会での研究報告に応募する予定である。
|