2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01474
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
出水 薫 九州大学, 法学研究院, 教授 (20294861)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 原発再稼働 / 自治体 / 政治過程 / 四国電力 / 伊方原発 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本研究の課題は、①深刻事故への対応を計画する義務を負う直線距離30キロ圏内自治体における、原発の再稼働に関する合意形成のあり方が、原発の立地自治体である県(知事)の対応によって、いかなる相違をもたらすのか、②前記①の合意形成過程が、当該立地自治体の知事選挙に、いかなる影響をあたえるのか、の二点である。研究方法としては、主に地方紙を中心とした文献調査と、関係者へのインタビュー調査をおこない、研究期間内に、三事例の比較検討により、原発再稼働過程に共通する局面を類型化し、共通する要素(環境条件など)などを特定する。 (2)本年は、対象である三原発の再稼働事例のうち、前年度に資料収集を実施していた四国電力伊方原発の再稼働について、「伊方原発再稼働への同意をめぐる自治体政治過程の事例分析」、『法政研究』第87巻第1号(査読あり)、2020年、1-35ページに、まとめた。この論考により、比較の前提となる事例の概要を、三事例すべてについてまとめたことになる。なお伊方原発の再稼働については、管見の限り先行研究はない。その意味で、かなり基本的な再稼働過程の整理に留まってはいるものの、同論文は原発再稼働の政治過程、とりわけ自治体を含む地域の政治過程の分析において、意義深いものであると考える。 (3)また前年度の実施報告に記載したように、新型感染症の影響が長期化し、インタビュー調査が困難なので一旦断念し、文献や報道資料にもとづいて対象事例を福井県下のものに拡大し、全事例比較に着手することにした。それを前提に本年度は、文献や報道資料などの収集・分析を進めることができた。さらに当初計画にある選挙分析については、個別の選挙ごとの条件が異なり、単一争点での影響の比較が困難であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)本年度の研究で比較検討の対象となる再稼働の三事例(川内原発、玄海原発、伊方原発)について、それぞれの再稼働過程の詳細を検討し論考としてまとめた。これにより、本研究の当初の計画の中心的な部分は、おおむね遂行されたと言える。 (2)なお当初の計画では、県境をまたぐ、原発の30キロ圏内の自治体の対応にについて、玄海原発と伊方原発の比較をおこなうため、インタビュー調査を実施する予定であったが、新型コロナ感染症の影響で実施が遅れている。研究期間中に実施できる見通しがたたないので、インタビュー調査は断念する。 (3)他方で、前年度の実績報告でも指摘したように、個別事例の検討を通じて、上記県境をまたぐ30キロ圏の自治体間の相互関係については、玄海原発と伊方原発の比較は困難であることが分かった。伊方原発の30キロ圏は所在する愛媛県の県境を越え、山口県の自治体に及ぶが、対象となるのは一町であり、かつ30キロ圏内には居住者がいないため、玄海原発の事例とは、条件がかなり異なるからである。そこで県境を越える30キロ圏内の自治体間の関係の検討は、玄海原発と福井県下の各原発の事例の比較の方が、より適切であることが分かったので、研究期間中に、福井県下の原発の再稼働事例についても、検討に着手することにした。さらに当初計画にある選挙分析については、個別の選挙ごとの条件が異なり、単一争点での影響の比較が困難であることを確認した。そこで最終年度においては選挙分析はおこなわないこととする。 (4)その上で、本年度は、関連する文献や報道資料を一定程度収集し、分析に着手した。その意味で、方針転換を踏まえても、本研究は、おおむね計画通りに進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)上記の進捗状況についてで言及しているように、当初の研究計画を修整し、検討対象を拡大することにする。具体的には、すでに検討した本来の対象である三原発に加え、福井県下に所在する原発の再稼働過程の事例も対象に加える。また同様に、当初計画にある選挙分析については、個別の選挙ごとの条件が異なり、単一争点での影響の比較が困難であることを確認したため、最終年度においては選挙分析をおこなわないこととする。 (2)インタビュー調査の実施について、新型感染症の状況を前提に実施を断念し、その分も含め、昨年使用できなかった予算が残っているが、福井県下の原発の再稼働事例が複数あるので、それらを含め全事例比較のための資料収集に、残額のすべてを充てることにする。 (3)ただし福井県下の再稼働事例については、複数あるばかりでなく、福島第一原発事故後、関係法令が全面改編される以前に、再稼働をおこなっており、それも含めて分析する必要がある。したがって、本研究での方針転換にもとづいて進めても、本研究期間中に、全事例比較を完結させることはできない。今年度は、最大限可能な範囲で、研究・分析を進め、全事例分析の方向性を発展させ、次の研究へと継続させることが可能な状況をつくりだせるようにする。
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Causes of Carryover |
本年度は、新型感染症の影響で想定していたインタビュー調査ができなかった。また研究計画を修整したため、当初の計画どおりにインタビュー調査をする必要性もなくなった。 次年度は、研究計画の修整を踏まえ、福井県下の原発の再稼働について研究を進める。そのため、資料調査を福井県および京都府でおこなう必要がある。繰越分も含め、今年度の研究費は、そのために利用する。
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