2019 Fiscal Year Research-status Report
世界秩序構想としての「翻訳」の意義に関する政治社会学的研究
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19K01475
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
施 光恒 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (70372753)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴山 桂太 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30335161)
佐藤 慶治 精華女子短期大学, その他部局等, 講師 (10811565)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ポストグローバル化 / 翻訳 / グローバル化批判 / リベラリズム / ナショナリズム / 伝統 / 明治の国づくり / 音楽教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の活動の中心は研究会の開催、およびシンポジウムの実施であった。 研究会は、2019年5月18日に九州大学、8月27日に京都大学、2020年2月9日に京都大学にて開催した。5月18日の研究会では研究計画全般について議論した。8月27日の研究会では「ポスト・グローバリズム」の現状やその思想的背景をテーマとし各々が発表した。2月9日の研究会では、過去二回の公開シンポでの議論、および当日の報告を巡って議論を行った。特に柴山氏の報告に基づき、「伝統」について議論することの重要性を確認した。本研究では「翻訳」の政治社会学的意義を題材にするものだが、その際に外来の知を受け入れる社会の文化的基盤の理解が重要となる。「伝統」とは、絶えざる解釈や半ば無意識の取捨選択行為の積み重ねからなること、およびそうした理解の下、各社会の伝統を具体的に検討する際の道筋などについて認識を深めることができた。 二回の公開シンポジウムの概要は以下である。一回目の公開シンポは2019年10月26日に精華学園記念館大ホールにて「ポスト・グローバル化時代の可能性――より良き世界秩序をどう構想するか」というテーマの下、行った。基調講演者として評論家の中野剛志氏を招いた。その後、「グローバル経済の混迷と次世代の課題」というパネルディスカッションを行った。 二回目の公開シンポは、2019年12月22日に「明治日本の文化形成における「翻訳」――音楽を中心にその意義を考える」というテーマの下、開催した。科研メンバー以外に、哲学や音楽学、音楽教育学の専門家をお招きし、登壇いただいた。また、「明治の文化形成を「翻訳」より再考する」と題するパネルディスカッションを行った。 その他、各メンバーの本研究に関わる業績は計4回の学会発表(うち招待1)、短いものも含むが5本の論文(うち査読誌1)、共著本の部分執筆1章分だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
判断が難しいが、初年度(2019年度)の進捗状況には、当初の予定よりもやや遅れている部分とむしろ進んでいる部分とがあり、全体としてはおおむね順調に進展していると判断すべきだと考える。 やや遅れている部分としては海外調査を持ち越したことである。当初の予定では初年度に欧州に海外調査に行き、ポスト・グローバル化の動きについて調査する予定であった。しかしこれを次年度に持ち越した。ただ、調査を延期したわけは、研究会などで議論をメンバー間で重ねるうち、実施すべき海外調査の内容や行先について認識が深まったことが主な理由である。それゆえポジティブに評価すべき面もある。新型コロナウィルスの関係で2020年度に海外調査に行けるかどうか心もとない部分もあるが、可能だとすれば、当初の予定よりも充実したものになると思われる。 その他、シンポジウムや研究会の開催については、おおむね予定通りであった。特に公開シンポジウムについては、検討すべき内容が多岐にわたったため当初1回の予定だったのが2回の開催となった。特に、2回目のシンポジウムにおいて、明治期の日本の国づくりにおける「翻訳」の役割について音楽教育などの幅広い学際的観点から検討できたことは当初の想定を超えた進展だった。 また、研究会やシンポジウムでの議論を重ねる中でグローバル化批判の論点整理ができたこと、および「伝統」の観念の吟味が必要なこと、またその検討の道筋について認識を深めることができたことも収穫だった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、一年目(2019年度)の研究会やシンポジウムで検討した成果を整理し、書籍(論文集)のかたちでまとめていきたい。現行のグローバル化政策の破綻やその思想的原因、およびポスト・グローバル化の動きの実態とその評価について主に政治学や政治経済学の観点から論じる書籍である。 次に、新型コロナウィルスの影響で海外調査に赴くことができるかどうかは不透明であるが、可能であれば2020年度はイスラエルや英国を訪れ、リベラル・ナショナリズム関係の識者との意見交換やポスト・グローバリズム運動の調査を行いたい。(海外調査が難しいようであれば、明治期日本の国づくりに関し、調査を当初の予定よりも拡充して行いたい)。 加えて、「翻訳」による秩序作り(国づくり)の手法の分析の一段階として「伝統」論を深める作業を行いたい。具体的には、比較教育学の専門家などを招いたシンポジウムを2020年度中に行うことを計画している。各国・各地域のしつけや教育の特徴を吟味することにより、文化の半ば無意識の取捨選択のあり方を見出すことができるのではないかと考えるからである。伝統の形成をこのようなかたちで検討することにより、ある国や地域の伝統の特性に合わせ、外来の知をどのように「翻訳」し「土着化」してきたかの理解を深めることができると思われる。 さらに、研究会を重ねるなかで、「翻訳」をキー概念としつつ、グローバル化以後のより公正な世界秩序のあり方、そのなかでの国づくりのあり方に関する検討を進めていきたい。こちらに関しても、書籍のかたちで出版することを目指している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、予定していた海外調査を延期したことである。 当初の予定では、2019年度(令和元年度)は英国を訪れ、ブレグジットを主導した市民団体、および幾人かの研究者にインタビューをするつもりだった。それが、研究会やシンポジウムを重ねながらメンバーで話し合ううち、イスラエルに調査先を変更するのはどうかという話が持ち上がった。理由の一つは、同地はリベラル・ナショナリズムの研究がさかんであり、意見交換をしてみたい理論家が複数いることである。また、ヘブライ語復興運動も、本研究のメンバーの共通の関心事である。周知のとおり、イスラエルの建国には、現代語として復興したヘブライ語を通じて築かれた国民相互の絆が大きな役割を果たしている。秩序形成における言語や文化の社会的・政治的意義は本研究の問題関心の一つであるゆえ、イスラエルの言語的様相を現地で確かめたいと考えた。 しかし、イスラエルに関心をもってまだ日が浅いため、訪問先、インタビュー先などの下調べやその他の事前調査が必要となった。それゆえ、2019年度に予定していた海外調査を次年度に延期した。それが次年度使用額が比較的大きくなった理由である。
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Research Products
(10 results)