2019 Fiscal Year Research-status Report
The Reconsideration on "Subjectivity" in Modern Political Theories through Care Ethics
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19K01484
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
杉本 竜也 日本大学, 法学部, 准教授 (30588900)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ケアの倫理 / 脆弱性 / 主体性 / 自立的・自律的・理性的市民 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、第一に「ケアの倫理」の理論の全体像を把握すると同時に、そこにおける人間像の整理を行った。一般的に、「ケアの倫理」では、すべての人間が有する特性すなわち「人間の条件」として「脆弱性」(vulnerability)を理解する。その理解に立った上で、「ケアの倫理」の提唱者の考える人間像に関して考察を行った。今回は、中でも、ヴァージニア・ヘルドの論考を参考として、上記の考察を行った。それを通して明らかになったのは、「ケアの倫理」の主流の考え方はフェミニズム研究に立っているということであり、その人間像もフェミニズムに則ったものであることが多いということである。フェミニズムは、リベラリズムの系譜に属すると同時に、それとは思想的な緊張関係にある。現代社会がリベラリズムを基軸としていることを考えると、フェミニズムや「ケアの倫理」はきわめてラディカルなものであることが明らかとなった。 第二に、西洋政治思想史上の「市民社会論」と「市民」像の変遷について考察を行った。18世紀のアダム・ファーガスンから現代のジョン・キーンらに至る「市民社会論」の概念的変遷をたどると同時に、その理論における最重要概念である「市民」すなわち政治主体に関する考察を行った。前者に関しては研究論文や文献も豊富であるためにそれらを渉猟し、概念の整理を行った。他方、後者に関しては、政治主体としての「市民」を取り扱った論文等は予想外に少なく、十分な考察はかなわなかった。 上記の通り、2019年度は、第一に「ケアの倫理」の視点から、第二に「市民社会論」という視点から、近現代政治理論の「主体性」概念を考察した。全体的な方向性としては当初の予定通りだが、いまだにこれらの2つの視点を有機的に統合して研究する段階には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ケアの倫理は元々フェミニズム研究の中から生まれてきたものであり、既出の研究成果の多くもフェミニズムの領域に属するものが多い。しかしながら、本研究はフェミニズムではなく、反・優生思想の立場から研究を開始しているために、従来からの多くのケアの倫理研究とは立場を異にしている。ただ、現時点において、反・優生思想の視点に立ったケアの倫理の政治学を構築するまでには至っていない。 また、研究環境の点では、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、2020年3月に予定したジョアン・トロント教授(アメリカ)との意見交換がかなわなかった。トロント教授はケアの倫理の政治学の世界的権威であり、彼女との意見交換は有意義なものになるはずであったため、その機会が失われたことは研究の進展に大きく影響することになった。 よって、全体的には、研究の進捗状況はやや遅れているといわざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の世界的流行のために、海外渡航が困難になっただけでなく、そもそも本務校の研究室にすら立ち入ることが難しくなっているため、研究に関する書籍を読むことすら困難な状態にある(本報告書を作成している4月下旬時点)。このような環境のため、今年度は新型コロナウイルス感染症の流行状況次第によって、研究の進捗が大きく左右される。 よって、日本国内の外出制限や海外各国の渡航制限といった外的条件の変化に合わせて、臨機応変に対応を講じる必要がある。
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Causes of Carryover |
第一に、主に書籍購入に充当された物品費が想定よりも抑えられた。これは、書籍購入にあたっては学内発注を多用したことから、市価よりも廉価に入手することができたためである(市価で購入していれば、当初の申請金額とほぼ同額の物品費がかかっていたはずである)。 第二に、旅費については国内の研究会が開催されない、もしくは参加できない事態となり、その分旅費が抑えられることになったものである。 当該金額については、研究会参加等の国内旅費や書籍購入に充当する予定である。
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Research Products
(1 results)