2021 Fiscal Year Research-status Report
The Reconsideration on "Subjectivity" in Modern Political Theories through Care Ethics
Project/Area Number |
19K01484
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
杉本 竜也 日本大学, 法学部, 准教授 (30588900)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ケアの倫理 / 正義 / 脆弱性 / 自立的・自律的・理性的市民 / 相互依存 / ケアのデモクラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
当初、本研究計画では、前半において「ケアの倫理」(Care Ethics)に関する研究を主として行い、そこで得られた知見を元にして後半では近代リベラル・デモクラシー理論や現代市民社会の「主体性」(subjectivity)概念の批判的考察を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行下での各種の制限により、前半のプロセスが大幅に遅延することになり、結果的に後半のプロセスへの取りかかりも遅れることとなった。2021年度においては、当初予定していたアメリカ政治学会への参加、国内外の研究者との直接的な交流は一切かなわず、著作・文献を通した研究が主となった。 そのような状況においても、一定の知見を獲得することはできた。それは、従来対立的に理解されてきた「正義」と「ケア」だが、それらは一体化できるという可能性である。「ケアの倫理」は「正義」と「ケア」を対立的に把握したキャロル・ギリガンの研究を起点としており、思想的な幅が広がった今日においてもその影響は大きい。そのため、本研究の初期においても、近現代政治理論は「自立的・自律的・理性的市民」という人間像に基づくものだとして批判的に考察を行っていた。しかし、そのような近現代政治理論理解は西洋思想における人間像の一側面を強調したものに過ぎず、近代においても他者との有機的な関係の中で人間像の構築を試みる動きが存在していたことがわかった(ガブリエル・マルセル等)。つまり、近代の人間像においても、「脆弱性」(vulnerability)の存在を前提として、他者との相互依存的な関係性の中で人間像が形成しようとする試みが存在していたことがわかった。この知見は、近現代政治理論における「主体性」概念の再検討という本研究計画の大目標を実現する上でも重要なものになると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述の通り、新型コロナウイルス感染症流行下における各種の制限により、国内外の研究者との直接的な対面交流がきわめて難しくなるだけでなく、外出制限のために自身の研究室に赴くことすらままならなかった時期があった。そのため、研究活動の進捗に著しい支障が生じた。結果的に、既に入手している文献や手持ちの文献を利用して研究活動を行うことになった。 だが、インターネットを最大限活用すること等を通して、研究の促進を図ったことから、同じく新型コロナウイルス感染症流行下であった前年度と比較すると、研究の進捗に改善が見られたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画の延伸により、2022年度は最終年度となるため、同年度において大目標である近現代政治理論における「主体性」概念の再検討を現実的な成果として明らかにすることができるように努める。新型コロナウイルス感染症の流行状況が以前よりも落ち着いてきていることから、アメリカ政治学会への参加をはじめとして国内外の研究者との交流も積極的に再開していく予定である。また、近年公刊された著作等の関係研究書籍を通して、「ケアの倫理」に関する最新の研究成果を入手すると共に、市民社会の政治思想に関する各種研究書に関する考察も進めていく。 1990年代から2000年代前半にかけて盛んに研究されていた市民社会論だが、近年は世界的に関心が低下している印象がある。しかしながら、市民社会論に関する研究は本来デモクラシー論の基軸にあるべきものであり、その重要性は変わっていない。そのため、2022年度は市民社会論の研究を通して、本研究計画の大目標を具体化していきたい。
|
Causes of Carryover |
研究の遅延により、研究計画完成年度を延伸したため、次年度使用額が発生した。 2022年度はアメリカ政治学会(カナダ・モントリオール)への参加を予定しているため、渡航・滞在費用がかかることになる。そのために、研究予算の適正な使用が図られると考える。
|