2019 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の首相演説における認知フレーム形成と変容:概念メタファーを用いた実証研究
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19K01487
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
ソジエ内田 恵美 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (00350405)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メタファー / 概念メタファー / 日本首相 / 政治演説 / 認知フレーム / 実証研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究には以下の三つの軸から展開する。(1)戦後日本の首相演説は、どのような概念メタファー(Conceptual Metaphor) (e.g., Lakoff 1993; Lakoff & Johnson, 1980, 1999, 2003)による認知フレーム(cognitive framing)を形成して有権者に支持を訴えてきたのか。(2)概念メタファーにより形成された認知フレームはどのような通時的変化を経たのか。(3)どのような社会的要因の影響を受けて通時的変化がもたらされたのか。 研究代表者は、初年度に当たる2019年に、政治学分野・言語学分野における概念メタファー分析(Conceptual Metaphor Analysis)に関する幅広い文献研究を行った。同時に、すでに収集済みの日本首相による所信表明演説と施政方針演説を用いて、より信頼性の高いメタファー抽出方法を検討している。そのために、まずヒューマン・コーディングによるメタファー抽出作業を行った。そして、抽出されたメタファーを以下の6つの概念メタファー領域群に分類した。(1)旅や経験、動きに関わる領域群(2)擬人化に関わる領域群(3)建物や構造に関わる領域群(4)自然に関わる領域群(5)戦いや競技に関わる領域群(6)ビジネスに関わる領域群。次に、これらのメタファーを計量分析に向けて、内容分析のためのコンピュータ・ソフトウェア(KHコーダー)のコンコーダンスや共起ネットワークを併用し、対象語彙・句の文脈内での意味を比較分析することで比喩性を確認する作業を行っている。メタファー抽出の信頼性を高めることを追求しているが、先行研究の多くは抽出方法を詳細に記していない。そこで、本研究ではコーディング・ルールを作成し、メタファー抽出のための指標を明確にし、再現性を高めるべく検証を重ねている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書における初年度の目標(第一段階)は完了している。日本政治におけるメタファー分析は先例がないため、6つの概念メタファー領域群に関する言説分析の論文を執筆している。メタファーの概念や類型の変化は、現代日本政治における価値観の変化を表し得るものである。本研究が最終目標としている計量的な実証研究とともに、質的な言説分析の結果も進め、発表していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、まずは、信頼性を確保したメタファー抽出方法を確定する。そのうえで、各演説において上記6つの概念メタファー領域群における使用頻度を計算する。さらに、de Landtsheer & de Vrij(2004)の枠組みを応用し、メタファーの意味の拡大パターン(感情表現や規範的表現との共起)を数値化する(意味指数)。そして、首相演説をそのトピック(経済、外交、安全保障、民主主義、グローバリゼーション、愛国心など)を基に分ける。そして、各トピックにおいて、どの概念メタファー領域群が使われたか(使用頻度)、どのくらいメタファーの意味が拡大されたか(意味指数)を計量分析によって明かにして可視化する。 2021年度は、メタファーの使用頻度と意味指数を従属変数とする実証研究を行う。各首相による概念メタファー使用の差異は、個々の首相の言説スタイルではなく、認知フレームの変化を表すと考える。本研究では、メタファー使用の変化は社会経済並びに政治状況の変化に依存すると仮説を立て、検証する。
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Causes of Carryover |
研究計画時には、ヒューマン・コーディングによるメタファー抽出においてリサーチ・アシスタントを雇用することを想定していた。しかし、メタファー抽出には一定の知識や経験がなければ難しく、最終的には研究代表者が一人で全ての作業を行なった。そのために想定したよりも費用はかからなかったが、時間を必要としたため、研究発表の段階に至らなかった。 2020年度は、計量テキスト分析のソフトウェアを用いた分析段階に達したため、リサーチ・アシスタントを雇用して分析スピードを上げたい。
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