2021 Fiscal Year Research-status Report
Karl Mannheim and British Intellectuals: On the Development of his Idea of "Planning for Freedom"
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19K01488
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
山田 竜作 創価大学, 国際教養学部, 教授 (30285580)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カール・マンハイム / 自由のための計画 / ムート / 計画的思考 / 民主的パーソナリティ / 鍵となる位置 / 民主的コントロール |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究成果は、主に以下の点に集約される。(1)英国におけるマンハイムがキリスト教知識人グループ「ムート」で「自由のための計画」論を練り上げる中で、彼が宗教に何を期待したかを一定程度明らかにしたこと。(2)マンハイムが考える「計画」において「教育」が不可欠な要素であったことから、彼の言う「計画的思考」と「民主的パーソナリティ」を持った新しい人間を育成しようとする彼の意図にアプローチしたこと。(3)これまでほとんど言及されたことのなかった、マンハイムがしばしば用いるキーワード「鍵となる位置」について、それが彼の民主的計画論における権力論の文脈の中で検討し、彼の「民主的コントロール」の考え方を明らかにしたこと。
以上はすべて、英国期マンハイムが「計画」を論じる際に何を考えていたかを明らかにしようとする試みであり、先行研究では満足に語られてきたとは言い難い点である。特に、本研究の1つの重要な目的である「民主主義者としてのマンハイム像を浮き彫りにすること」を考える際に、彼が政治システムとしてのみ民主主義を考えていたわけではなく、「計画」の目的である社会再建という観点から民主主義を (a)社会構造との関係から理解すべきもの、(b)民主主義を担う人間(エリートと大衆の両方)の育成と結びつかざるをえないもの、と考えていたことがより明らかになったと思われる。
また、本研究は思想史研究でありつつも、同時に、研究対象である1930~1940年代の政治社会思想が現代民主主義の危機を論じる際にしばしば比較対象とされることが念頭に置かれている。2021年度の研究成果は、現在の民主主義論の中でほぼ忘れられたマンハイムの独自の発想を掘り起こす際の足掛かりになるものとなった、と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年間におよぶコロナ禍の影響で、渡英して「ムート」文書をさらに収集することができなかった。そのため、マンハイム自身のテクストを再度読み直すという作業が中心となり、彼の「自由のための計画」論の「ムート」における発展・展開というところまで考察が及んでいない。同様のことは、マンハイムと A. D. リンゼイの関係の問い直しという課題にも言え、現時点では、マンハイムの内在的な思考を探求するというところから先へ進めていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は所属大学の在外研究制度のおかげで1年近く英国に滞在するので、まだ足りない「ムート」文書をさらに収集するのみならず、英国の政治思想研究者たちと議論する中で、1930~40年代という歴史的状況の下でマンハイムがどのように英国知識人に受け入れられた(あるいは受け入れられなかった)のか、理解を深めたい。また、英国でマンハイムが関わった知識人たちは多かれ少なかれ「文化の民主化」という問題に直面していたが、リンゼイや T. S. エリオットなど研究当初から着目していた知識人たちのみならず、F. クラーク、C. ドーソン、J. M. マリーといった面々がその可能性をどう考えていたか、あるいは彼らが思考した文脈である第2次世界大戦前後の英国社会史について、理解を深めたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、英国に資料収集に行くことができず、また国際学会での発表もオンラインでの実施となったため、予定していた2回の海外出張がなくなったことが大きな理由である。2022年度は、所属大学の在外研究制度により英国に滞在するため、資料収集や研究者との面会などのため各地に移動する旅費に多く使用する予定である。
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