2019 Fiscal Year Research-status Report
What Caused the Collapse of the Washington Treaty System in the Interwar Years: Commitment Problem and International Order
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19K01499
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
中谷 直司 帝京大学, 文学部, 准教授 (70573377)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ワシントン会議 / ワシントン体制 / 日英同盟 / コミットメント問題 / 戦間期 / 国際連盟 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の2019年度は、1921-22年のワシントン会議に関する公刊資料の収集と読解を中心に研究を進めた。力点を置いたのは、イギリスのワシントン会議準備の検討である。なぜなら、アメリカの国際連盟不参加に起因するコミットメント問題(国際的な約束を守る力がない問題)が生じている中では、日本および中国の不平等状態の持続といった、先行研究がいうワシントン会議の「限界」は、会議での交渉や条約内容をみるだけではわからないと予測したからである。こうした検討作業の結果、以下の成果が得られた。 ①先行研究が会議の限界の原因の一つだったと理解する日本側の詳細な議題確認要求は、中国の不平等状態の改善をめざすアメリカの「新外交」に一方的な制約を加えたのではなく、具体的な議題案を当初提示できなかったアメリカ側の準備を促進する効果をもった。 ②アメリカの理念を政治的・経済的な自己利益につなげるために、場合によっては米提案以上の問題の提起を検討していた日本側とは異なって、イギリス側は会議の対象範囲を(1)会議の発端となった日英同盟の更新問題と(2)海軍軍縮問題に制限することを明確に志向していた。ただしその原因は、アメリカ主導の新秩序構築に反発したからではなく、国際的な約束に関するアメリカの自己拘束力に問題があるなか、日本の政策目的への強い不信感も払拭できず、「もし太平洋と極東に関するあらゆる問題を討議しようとすれば、会議が破綻する可能性がとてつもなく高く」なると、深刻に懸念したからである(英外交資料より)。ただし、アメリカ「新外交」を自己利益につなげようとする日本の政策志向については、イギリス側も認識しはじめていた可能性がある。
以上は学会発表として報告したが(「ワシントン会議への道程」)、学術論文としての公刊のために、①日米英の未公刊資料の利用、②会議中の公刊・未公刊資料との統合的な検討を今後進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
公刊資料の収集および読解が順調にすすみ、当初の計画にはなかった学会発表を初年度に実施できたため、このように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)今回主に対象した日英の会議準備とアメリカ側の会議準備の比較検討、(2)ワシントン会議中の日米英の政策過程と国際交渉過程の検討を、公刊および未公刊資料の収集を中心にすすめる。未公刊資料の収集については、新型コロナウィルスの世界的感染拡大で、特にアメリカ・イギリスでの現地調査が当分困難だが、インターネット上で公開されている資料の利用や、ワシントン会議期より後の公刊資料の分析作業の前倒し、同様のテーマを研究する研究者との資料の相互提供などを通じて、できるだけ研究遂行に影響がでないように工夫する。
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Causes of Carryover |
初年度は公刊資料にもとづく分析作業が計画以上に進み、その成果をまず学会報告した。このため、海外での未公刊資料の調査は、学会報告に対する反応を踏まえて、公刊資料の分析もさらに進めた上で、次年度に集中して実施する方が効率的と判断したために、主に旅費の支出が大幅に減り、次年度使用額が生じた。同時に当初計画よりも予算配分額が減ったため、研究遂行に最も重要な海外での未公刊資料収集に充てるために、物品の購入も最低限に抑えた。よって次年度使用額は、海外調査の旅費として使用する予定である。ただし、新型コロナウィルスのアメリカ、イギリスでの流行状況をみながら、実施時期は慎重に検討する。
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