2019 Fiscal Year Research-status Report
科学技術イノベーションの遍在化が国家安全保障に与える影響-米国を事例として-
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19K01518
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
松村 博行 岡山理科大学, 経営学部, 准教授 (60469096)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | デュアルユース / イノベーションエコシステム / 米中デカップリング / 投資規制 / 輸出管理 / 高度人材 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる2019年度は、当初の予定通り先行研究の整理・分析および基礎的なデータ収集といった研究基盤の構築に努めた。まず前者に関しては、科学技術イノベーションの遍在化について、安全保障領域の研究を中心に輸出管理政策、投資規制、多国籍企業論、さらには大学経営論にまで視野を広げた整理と分析を行った。この過程で、当初の予定になかった「高度人材の移動」についての知見を広げられたことは有益な成果となった。 また、折しも「米中ハイテク摩擦」が急速に進行するなかで、本研究課題に関連する新たな動きが日々展開されているため、こうしたカレントトピックのフォローも精力的に行った。 データ収集については、2月にワシントンD.C.に赴き、主として議会図書館において日本国内では入手が困難な一次資料の収集や外国語文献の閲覧・複写を行い満足できる成果を得た。 研究成果の対外発表に関しては、資料収集や先行研究の整理といった研究の基盤づくりが今年度の到達目標であったので、その成果を学術論文という形で発表するまでには至っていない。ただ、「エマージング技術の管理手法の模索-米国を事例に」(R1年12月・国際安全保障学会)、さらに「米中ハイテク摩擦を巡る一考察-米国の対内投資規制および輸出規制の視点から」(R2年1月・日本国際経済学会)という2回の学会報告の機会を得ることができたため、今年度の研究成果の一部を対外発表することができた。また、このなかで討論者等から研究上の有益な示唆が得られたことも大きな成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究のフォローや整理などは予定通りのペースで進められた。また、対外発表に関しては予定を超える機会を得ることができた。さらに、米国での資料収集についても満足のいく結果であった。 他方、インタビュー調査をもう1回計画していたが、折しもの米中間のテクノロジーをめぐる紛争の影響を受けてアポイントメントを確保することが極めて困難となったことから渡航を見送った。 以上を勘案すると、総じてここまでおおむね順調に進展していると見て差し支えないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目以降の推進方策については、2つの点で再検討を行う。 第1に、仮説の再検討である。本研究課題における主たる問いは、根源的にボーダレスな性質をもつ科学技術を、国境を前提とする主権国家がパワーのリソースとして管理することにより生じる矛盾は解消可能かというものである。この問い自体の意義はまったく変わらないし、むしろその解明へ向けた社会的要請はさらに高まっていると感ぜられる。 しかし、その検証のため、科学技術の遍在化を前提にその成果を国家安全保障に取り込む「オープンイノベーション」型の防衛研究開発プログラムに、その矛盾解消の可能性が見いだせるのではないかとの仮説を構築したのだが、今、米国が進めつつあるのは、米中間に巨大な壁を構築する「技術囲い込み」である。もちろん、これがトランプ政権下での一過性のものである可能性も現段階では棄却できないが、いずれもせよ当初の仮説の検証だけでは学術的な問いに十分答えることが困難となっていると思われる。新たな仮説の設定およびその検証を急ぎたい 第2に、covid-19の感染拡大に伴って海外渡航の不確実性がこれまで以上に高まっている。2年目には2度の渡米調査を予定していたが、現状ではどの段階で渡米が可能になるのか、また訪問調査を受け入れてもらえるかどうか確証はない。渡航困難な状況が継続した場合、インタビュー調査はZOOM等を用いた会議システムを使用することである程度カバーできるだろうが、オンサイトでしか閲覧・入手できない資料等をどのように取得するのか、代替案はすぐに見つかりそうにないが、出来る範囲で最大限の効果を実現できるよう取り組むつもりである。
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Causes of Carryover |
2019年度には米国での2度の資料収集を予定していたが、すでに入手している先行研究の整理・分析にやや時間を要したことと、「米中ハイテク摩擦」の余波で、インタビュー調査を希望していた訪問先の再検討が迫られたことから1度の調査に終わった。 2020年度も2回の訪米を計画しているので、これらの渡航日数を増やすなどして19年度に実施予定だった調査を行いたい。
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