2021 Fiscal Year Research-status Report
科学技術イノベーションの遍在化が国家安全保障に与える影響-米国を事例として-
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19K01518
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
松村 博行 岡山理科大学, 経営学部, 教授 (60469096)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国防イノベーション / イノベーション・エコシステム / エコノミック・ステイトクラフト / 米中大国間競争 / デカップリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本来なら昨年度が最終年度であったが,新型コロナウイルスの世界的蔓延により予定していた渡米調査が2年連続で行えなかったため,研究期間の1年延長を申請し,これを認めて頂いた。 2021年度の研究成果として,6月に『国際安全保障』において「イノベーション・エコシステムと安全保障」と題する特集を報告者の責任編集の下で刊行した。この中で,本研究課題における焦点の1つとしていたイノベーション・エコシステム論と安全保障研究の架橋については一定成果を示すことができたと考えている。報告者は序章で,イノベーション・エコシステム論を整理した上で,米国の軍事研究開発政策における,イノベーション・エコシステムとの接点の拡大を図る「オープンイノベーション」の取り組みの現状とその限界を明らかにした。また報告者以外に4名の研究者に執筆を依頼,米国の投資規制,輸出管理政策,そして主要国の国防イノベーション・エコシステムマネジメント,さらには権威主義体制下のイノベーション・エコシステムの特徴というそれぞれの論点から本特集号のテーマの立体化,複層化に貢献してもらった。 もう1つの成果として,『米中経済摩擦の政治経済学』を上梓した(中本悟と共編著)。本書で報告者は「科学技術領域にみる米中対立の構図-相互依存からデカップリングへの転換はなぜ生じたのか-」と題する論考を執筆し,本研究の中心的な論点である「科学技術イノベーションの遍在化」を結果的に加速した米国の科学技術領域における関与政策の論理と,それを制限しようとする「デカップリング」の論理について整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,①米国のイノベーションを取り巻くマクロな見取り図を構築すること,とりわけ民生分野と防衛分野の相互作用をシステムとして把握すること,②当該分野に関わる多様なアクターの意思決定プロセスを明らかにすること,の2つの課題を設定した。 これまでの研究で,①については2021年度の研究成果をもって概ね達成できたと考えているが,②については,予定していた渡米調査が2年連続で出来ていないため不完全である。ここでは(1)防衛研究開発におけるオープンイノベーションを追求する立場(DoD)、(2)機微技術の輸出管理を強化する立場(大統領府、CFIUS、DOC等)、(3)米国内のイノベーションを推進する立場(大統領府、DoC等)、(4)イノベーションの実施主体(企業、業界団体、大学等)を調査対象としているが,(1)から(3)については公開された文書等をフォローすることで一定程度明らかにしたと思慮するが,(4)が特に不十分である。
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Strategy for Future Research Activity |
第1の課題のフォローアップを行いつつ,第2の課題である民生アクター(大学・企業等)の意思決定プロセスの解明に取り組み,本研究のとりまとめを行う。 前者については,研究計画の段階では今日に見られるような科学技術領域のデカップリングの進展を予見していなかったので,トランプ政権期に始まった新興技術を中心とする輸出管理強化,あるいは対米投資規制の影響が今日,どのような形で表れているのかを明らかにする。とりわけ,当初は想定していなかった「人の移動」の規制の影響が米国のイノベーション・エコシステムに与える影響を看取したい。また,政治主導で行われているサプライチェーンの再構築という取り組みについても時間的余裕があれば整理したい。 後者については,当初予定していた軍事研究開発のオープンイノベーション化への対応だけでなく,安全保障の論理が前景化しつつある米国の科学技術政策,ないしは輸出管理政策に対する立場や対応についても追加的に明らかにしたいと考えている。方法としては対面インタビュー調査を考えているが,渡米が難しかったり先方との調整が不調であった場合はリモート調査,またはメールによる聞き取りにより実施する。
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Causes of Carryover |
当初予定では令和2年度,3年度に渡米調査を計画していたが,両年とも新型コロナウイルスの出入国制限のため実施が叶わなかった。よって,当初予算案よりも大きな額の繰り越しが発生している。今年度の調査実施によってこの超過分は費消予定である。
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Research Products
(2 results)