2019 Fiscal Year Research-status Report
ポスト冷戦期における新興国の国際秩序再編構想ーロシア、中国、ブラジルの比較研究
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19K01522
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
浜 由樹子 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (10398729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽根 次郎 明治大学, 政治経済学部, 専任准教授 (30726261)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地政学 / ネオ・ユーラシア主義 / 一帯一路 / サイバー主権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、早くは1990年代からロシア、中国、2000年代のブラジルで議論されるようになった、ポスト冷戦期の国際秩序構想を歴史的文脈に即して検討することである。 初年度は、国際秩序構想と特に密接な関係にある「地政学(なるもの)」に焦点を当てた。ロシアでは1990年代に「ネオ・ユーラシア主義」と呼ばれる思想・イデオロギーの主唱者が「地政学」的議論をリードした。かつて戦間期にナチ・ドイツの対外行動を支えた古典的地政学の連想もはたらき、この中心的提唱者たちはしばしば一括りにロシア・ナショナリストと評されがちである。しかし、詳細に検証を進めると、ネオ・ユーラシア主義にはいくつかのグループが存在し、新自由主義批判の思想との交錯点が存在することが明らかになった。 中国でも1990年代以来、古典的地政学の翻訳書が出版され、地政学的発想の重要性を訴える論調が台頭したが、この現象は必ずしも中国の覇権主義とは限らない。羽根が行った検証の結果、後に「一帯一路」構想につながる流れの中で、発展を続ける沿海部に比べて、取り残された内陸部の貧困をいかに克服するかという課題に向き合う中で地政学が注目されていたことが明らかになった。また、ブラジルでは2000年代に「メリディオナリズモ」という思想が「南」から「北」への批判として左派の論客によって唱えられている。つまり、これらの国で流行している「地政学(なるもの」には、従来のような右翼思想だけでなく、どちらかといえば「左派版」ともいえるバリエーションが存在することが判明した。 また、羽根は、この研究の過程で、中国の国際秩序構想と結び付いた「サイバー主権」論にも着目し、「サイバー」と呼ばれているものが実際はきわめて物理的、そして「地政学的」な問題を背景に持つことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者の浜と研究分担者の羽根は、この発見を共著の論文(ワーキング・ペーパー)で発表し、浜は2019年夏の国際学会で報告した。 2020年3月には、ブラジル在住の研究協力者を招いた公開研究会を開催する予定であったが、新型コロナ・ウィルスの世界的な感染拡大を受け、一部をオンライン開催とした。また、移動が制限された影響で資料調査・インタビュー調査ができない状況が続いており、本来であれば共著の執筆構想を練るはずのところ、未だブラジルにおける先行研究のレビューを提出してもらうにとどまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本国内では緊急事態宣言が解除されるなど状況が変わりつつあるようにも見えるが、依然として大学図書館、国会図書館をはじめとする図書館・資料館は休館を続けており、和書や雑誌を使った集中的な調査、論文推敲のための出典確認作業等が行えない状態にある。また、海外渡航を前提とする資料収集や現地調査も延期を余儀なくされており、研究計画の大幅な変更が必要であろう。 このような状況を受け、それぞれがこれまで収集してきた一次史料・二次資料をここでいま一度精査し、再検討することで、基礎研究の強化を図りたいと考えている。 成果報告も、一次史料にもとづいた緻密な実証研究というよりは、先行研究や関係する研究の書評論文や問題提起的なものに偏る可能性が高い。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルスの世界的な感染拡大を受け、2月から3月に予定されていた海外での資料調査が行えなかった。今後、渡航が可能な状態になり次第、予定していた海外出張を実施したい考えではあるが、それが困難な場合には、基礎研究のさらなる充実を目指し、日本国内で安全を確保しながら可能な方法で二次資料の収集に使用したい。また、オンラインによる研究会やインタビューも構想中であり、ゲストとして参加あるいはインタビューに応じていただける場合は、講師への謝金と代えることも検討する。
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[Book] ロシア文化事典2019
Author(s)
沼野充義・望月哲男・池田嘉郎(編集代表)
Total Pages
886
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30413-6