2019 Fiscal Year Research-status Report
Applications of inductive inference model to preference evolution model and psychological game theory
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19K01540
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
福住 多一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (90375387)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 帰納的推論 / 意思決定理論 / 事例ベース意思決定理論 / ベイジアン決定理論 / ゲーム理論 / 進化ゲーム理論 / 選好進化 / 数理経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
帰納的推論に関する動学モデルの基本的な特性を検証・確認した。ベイズ・ルールによる思考過程(reasoning)は、事例ベースの思考過程に比べて、意思決定者の経験を通して信憑性が低下し、極限では相対的な蓋然性がゼロになることは知られている。今年度は、事例ベースを一般化した様々な思考過程についても、ベイズ・ルールに比べてその思考過程の信憑性は同様の振る舞いとなることを確認した。さらに先行研究では、理論による思考過程と事例ベースによる思考過程の蓋然性のを動学的に比較するモデルと、上に述べたベイズ・ルールと事例ベースを比較するモデルの基本設定が若干異なっていた。一般的には、特定の世界の状態の集合の族(以後、conjectureと呼ぶ)及びそのσ集合体によって、上記のような思考過程を類別し、その信憑性(測度の大きさ)を測るべきであろう。しかし、先行研究では理論による思考過程と事例ベースの思考過程の比較分析において、そのような集合族を加算無限集合にするという簡略化を行っていた。本研究では、そのような仮定を外し、より一般的な設定のもとで、ベイズ・ルール、一般化された事例ベース、そして理論、それぞれによる思考過程の動学的な思考過程の信憑性の変化を検討する基本モデルを作り、比較を行った。また、その設定のもとで、これら各種の思考過程のconjectureの位相的構造も検証した。 進化ゲーム理論や動学的なマクロ経済理論において、各エージェントがよって立つ意思決定手法の仮定によって、それらのモデルの含意は著しく影響を受ける。そこで、ゲーム理論や非線形動学の各種の研究会において、帰納的な意思決定として信憑性の高いものを採用し際に、どのような事が含意されるかを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
帰納的推論に関する動学的モデルの先行研究の水準での数学的構造は、概ね解明し終えた。さらに、どのような思考過程が意思決定者の経験を通してどのように信憑性(測度)を保っていくかについて、ある程度一般的な特徴も判明した。一般に、ベイズ・ルールによる推測は、他の様々な推測方法に比べて、急速に用いられなくなり、理論に基づく推測は、状態集合(states of the world)の想定の仕方によっては、信憑性を持つ場合があるといったことである。これら先行研究を総括したサーベイ論文を執筆し、2020年4月現在、研究年報に原稿を提出して校正中である。これは当初の研究計画のペースを堅持している。 また帰納的推論の動学モデルにおいて、意思決定者の推測方法の蓋然性を表現するための測度の特徴付けが、より基礎的な部分を支えていることが研究途上で判明してきた。先行研究ではp-単調性というある種の公理系をみたす測度を用いている。この公理系のを、より深く考察することで、帰納的推論の思考過程の信憑性についてより基礎的かつ一般的な検討を行っている。 以上の帰納的推論の動学的信憑性に関する一般的知見を基礎に、帰納的推論の理論の範囲での純粋な理論的拡張研究と、これらを進化ゲーム理論や学習理論に応用する研究に着手している。まず、帰納的推論の理論自身の拡張として、反証可能性の仮定を弱めた結果にについての理論的考察を開始している。さらに、先行研究では無限期間の極限における思考過程の信憑性を議論しているが、ゲーム理論や動学的マクロ経済理論など諸分野の研究者との研究セミナーでの交流を通じ、基本モデルの有限期間における定量的な特徴を検証することの重要性が判明した。そこで、有限期間の設定で、どのような思考過程が帰納的推論のなかで、どのような割合で用いられるかについて、操作可能な数式モデルの構築に取り組み始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に沿い、心理的ゲーム理論と進化ゲーム理論への帰納的推論の理論の応用を推進する。 心理的ゲーム理論の特徴は、その効用関数にある。効用関数がプレイヤーの信念(予測)に依存している。本研究では、帰納的推論の動学モデルによって、プレイヤーの予測を内生化していく。つまり、プレイヤーの信念の動学的な変化を捉えていく。そこで、心理的ゲーム理論の信念形成の部分に、帰納的推論の各種の思考方法に基づいた信念を組み込む。こうして、経験を通して心理的要素が次第に変化していくプレイヤーたちによるゲームの均衡を分析できる。現在、その基礎的な数値例の構築に取り組んでおり、一般的な理論化を今後、進めていく予定である。この一般的な結果を今年度中に揃え、研究計画に沿う形で、来年度初頭に学会報告、さらに論文として公刊していく予定である。 進化ゲーム理論では、ある程度、プレイヤーの学習の仕方を特定化して、安定的な状態を検証する。そこに、帰納的推論の動学モデルで想定するように、各期の予測を様々な思考過程によって行うプレイヤーを想定した場合に、どのような定常状態が出現するかを検討する。これは、新しい均衡選択の手法となる可能性が高い。また、それらの知見をより具体的な文脈でのゲーム(公共財の自発供給、寡占市場のモデルなど)に適用した場合の効果を検討することにより、経済・社会科学の基礎理論として本研究のより具体的なメッセージを打ち出していく。 さらに行動の進化だけでなく、研究計画にあるように、選好進化モデルへの応用を試みる。帰納的意思決定の導入の仕方は、上記の進化ゲームの場合と類似のものとなる。しかし既存の選好進化モデルは、短期的最適化でのプレイヤーの予想形成にアドホックな思考過程を想定しており、本研究はこれまでにない結果を導出する可能が非常に高い。結果の導出に続き、来年度には学会等での公表を計画している。
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Research Products
(7 results)