2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K01545
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
安部 浩次 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (40582523)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 実験経済学 / 行動経済学 / 社会的選好 / 不公平回避選好 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、次の2点を行った。(1)社会的選好の理論研究および実験研究に関する文献調査をすると同時に、実験データを詳細に再検討した。特に理論予測をもとに導いた仮説の検討を行った。(2)社会的選好と所得効果に関する理論研究を行った。 (1)データの検討に当たり社会的選好に関する3つの扱いやすい理論モデルを考察した。検討の結果、選好推定のための実験パートで得られたデータと最もよく適合するモデルはFehr and Schmidt (1999, QJE)が考察したモデル(以下、FSモデル)であると分かった。選好推定のための実験パートで得られたデータから推定したFSモデルに基づいて逐次手番囚人のジレンマ実験のデータを予想すると系統的に予測が外れることが分かった。特に、理論予測では囚人のジレンマで条件付き協力者となるべき人が相手の協力行動に対して非協力行動で答えるというように予測が外れることが観察できた。FSモデルに確率的なエラーを加えたモデルを考えて、選好推定のための実験パートで得られたデータを用いてエラーパラメータを推定したところ、先述したような予測の外れを選好推定パートでのエラーの大きさがある程度は捉えることができると分かった。しかし、そのエラーだけで予測の外れ方を捉えているとは言い難いことも分かった。この意味で観察したことはアノマリーであると言える。社会的選好のゼロ効果(他者に利得ゼロを与えることを避けたいという性質のために社会的選好パラメータが高めに測定されてしまうという効果)は多くの人には観察されなかったが、一部の少数の被験者に観察された。この意味でデータは個人の異質性の重要性を示すものであった。 (2)社会的選好モデルとして非線形FSモデルを提案し、それが既存の実験研究のデータを説明することを示した。この結果をまとめて論文として国民経済雑誌に出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
データを詳細に検討したことで分かったことをまとめている段階であるが、そこで新たに検討すべき課題がいくつか見つかった。そのためには実験室実験を実施して追加でデータを得る必要があるがコロナ問題を鑑みると実験室実験をしばらくは行うことができないだろう。そのため、当初の予定からは遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、社会的選好の理論研究および実験研究に関する文献調査をすると同時に、前年度の結果をまとめて論文とする。その結果を適宜学会等で報告する。 また、追加実験についてオンライン実験についても視野に入れ、その実施について検討する。 令和4年度は、異なるフレームを与えた実験を用いてこれまでと同様の分析を行う。具体的に、これまでは利益フレームで記述された所得分布を用いて考察を行うが、当該年度は損失フレームで記述された所得分布を用いて考察を行う。これにより考察している社会的選好の特徴はこれらのフレームに対してどのような違いがあるかについて検討する。これまでの考察にこれらの検討の結果を合わせ、それを詳細に分析・総括し、成果の発表を学会発表、そして論文投稿により行う。
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Causes of Carryover |
実験設計が遅れてしまったため、その実施ができなかった。それに伴い実験実施で見込まれていた謝金などの予算を使わなかった。 この使用に関しては、翌年度に計画していたが実施できなかった追加実験を可能な限り行う予定である。
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