2019 Fiscal Year Research-status Report
Theory and applications of Knightian uncertainty: making further advances
Project/Area Number |
19K01550
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
尾崎 裕之 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (90281956)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ナイトの不確実性 / 曖昧さ / リスク / 意思決定論 / 非期待効用理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者(尾崎)は、政策研究大学院大学の西村清彦教授との英文の共著書籍:Economics of Pessimism and Optimism (Springer)を2017年の年末に上梓した。この書籍は、近年、経済分野の研究者・実務家が多大な関心を寄せている「ナイトの不確実性」についての世界に類を見ない初の研究書であり、翌2018年には「日経経済図書文化賞」を受賞した。この書籍では、ナイトの不確実性のこれまでの基本的な研究成果を解説した後、著者ら自らの研究業績を丁寧に紹介する形で書かれており、この分野に興味を持つ初学者へも配慮した構成になっている。さらに、著者らの研究成果の延長線上には、まだまだ研究が待たれる多くの課題が存在しており、それらを紹介することによって、研究者にとっての将来有望な研究プログラムを多数提供する役割をも担ったものになっている。本研究課題は、そのようなリサーチプログラムの中で、尾崎が特に興味を持っているものの幾つかについて、自らがその研究を(場合によっては共同研究として)遂行することがその目的である。実際に、そのような研究成果のひとつとして既に査読誌に公刊されたものもあるが、これについては「進捗状況」の項で詳しく説明する。 ナイトの不確実性とは、本源的で、かつ非常に深いレベルにおける不確実性のことを指し、特定の確率分布で表現可能な「リスク」よりも、不確実性の度合いが強いもののことを言う。このような本源的不確実性の重要性を初めて指摘した経済学者、フランク・ナイトにちなんでこの名前で呼ばれることが多い。ナイトの不確実性下では確率分布すら特定できないために、伝統的な期待効用理論とは全く異なるアプローチが採られる必要がある。現在進行中のコロナ禍は、ナイトの不確実性で記述されるべきで、リーマンショックの際のリスク分析が通用しないことを指摘している人は多い。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の申請書に記した研究計画のうち、ナイトの不確実性(曖昧さとも呼ばれることが多い)が存在する場合の公共財供給ゲームに関する論文が、short paper専門の経済学専門誌ではもっとも評価の高いものの一つであるEconomics Letters誌に早くも掲載された。これは、東京理科大学(本年4月から)の岸下大樹氏との共著で、閾値に曖昧さがある場合、つまり、協力者数が閾値を超えた場合に公共財が供給されるようなゲームを考察したもので、例として、生態系保護のために自発的に狩りを止めるプレイヤーの数がこの閾値を超えたときに、生物多様性が保たれ、(狩りを止めなかったものも含め)全員が恩恵を受ける状況などがある。このような場合には、科学的な知見の不足などから、閾値の値が確率分布でも表現され得ない本源的な不確実性(曖昧さ)に直面していると考えられる。我々は、曖昧さの増加が、曖昧さに対するプレイヤーの態度(悲観的か、楽観的か)にかかわらず、均衡において自発的な協力を行うプレイヤーの数を減少させることを示した。閾値がリスクで表現される場合を分析した先行研究では、リスクの増加が協力者の数を増加させることを示したことを踏まえると、我々の結果は大変興味深いものといえるだろう。 この他にも、嘉悦大学の加藤寛之氏と政策研究大学院大学の西村清彦氏との共同研究では、staticなモデルでの曖昧さの代表的モデルとしてこれまで研究されてきたε-contaminationと呼ばれるモデル(その研究には尾崎自身もこれまで貢献をしてきた)を動学に拡張する新しいモデルを研究している。論文の一部は既に何箇所かで報告されているが、最終的な結果がほぼ出揃い、現在、最終稿の準備をしている段階である。最終稿がまとまり次第、速やかに専門誌に投稿できると期待している。 コロナ禍の影響についての対処については、事項で述べる。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在進行中の研究が多数存在しており、そのうちの一つについては、主定理の証明が終わっている。しかしながら、現今のコロナ禍の影響で、これらの論文の成果、あるいは、その一部を報告する機会が当面失われることが予想される。これは確実に研究にとってのマイナス面と捉えられる。 しかしながら、本研究は基本的には理論研究であり、共著者との密な(必ずしも対面である必要はない)連絡が保証されさえすれば、その遂行は可能である。また、その連絡も、現在のところはネット環境を利用して行っており、そのことによる特段の支障は起きていない。そのような連絡や議論の前に、共同研究者各自が(単独の研究であれば尾崎自身が)、堅実な理論研究を行い、その成果を積み上げていくことが欠かせない。このように、「紙と鉛筆」式の研究方法(あくまで、比喩です)を当面続けていくことを考えている。 多くの識者によって指摘されているように(「研究実績の概要」の項にも書いた)、コロナウイルスに関する感染率、致死率などの基本的な値が、本質的には、リスクではなくナイトの不確実性で記述されるべき点が、それに対する対策をより困難なものにしている面は否定できない。本研究テーマであるナイトの不確実性の分析のさらなる発展は、コロナ禍に対する経済対策策定などの基礎研究になり得ると確信している。基礎研究であるが故に、直ぐに経済政策に反映させることはできないとしても、コロナ禍の長期化による影響や、将来、再びこのような危機に直面した際に、少しでも実際的な応用に耐え得る理論構築を行っておくことは無意味ではあるまい。その意味で、上で述べたような方法で、この後の研究を推進していきたい。コロナ禍が去った暁には(それが訪れるとして)、学会などで研究成果を報告できるように、理論研究に努めることに今は注力するつもりである。
|
Causes of Carryover |
HEC(パリ)のItzhak Gilboa教授が毎年パリで主催している国際学会D-TEA(Decision: Theory, Experiments, and Applications)が、今年は2019年6月3-5日にパリのthe Institut of Henri Poincareで開催され、尾崎はGilboa教授より招待公演者としてこれに招待されていたものの、参加が中止となった。参加に際しては、旅費は先方から支給されないため、この旅費を科研費から支出しようとして準備まで進めていたのであるが、結局、参加できなくなったため、その分、科研費の使用計画に狂いが生じてしまった。 次年度への持ち越し分については、コロナ禍の収束後(これについては多分にナイトの不確実性があるものの)海外や国内の学会参加に振り向けたいと考えている。
|
Remarks |
別途、個人で作成予定。
|
Research Products
(3 results)