2021 Fiscal Year Research-status Report
Theory and applications of Knightian uncertainty: making further advances
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19K01550
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
尾崎 裕之 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (90281956)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナイトの不確実性 / 曖昧さ / リスク / 意思決定論 / 非期待効用理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究課題に直結する論文3本の執筆を行った。2本は完成して専門誌に投稿したところ、不採択となったものの、編集者および査読者のコメントが非常に参考になったため、これをもとに論文の改訂を行い、再投稿に向けて鋭意執筆中である。残りの一本については、完成まであと少しのところまで漕ぎ着けてはいるものの投稿には至っていない。以下、簡単に3本の論文の内容について触れる。 1本目は、不確実性の問題を動学モデルに応用する際に非常に重要な概念となる「矩形性」と呼ばれる性質について研究したものである。この性質を満たしていないモデルでは、動学的最適化(Dynamic Programming)と呼ばれる大変便利な数学的手法が使えず、また、その結果、モデルの分析が困難になる。そこで、動学のフレームワークで矩形性を満たすモデルを新しく考案し、これを用いて動学的最適化の手法が用いられることを示した。また、これを動学的職探しモデルに実際に応用することによって、新しい経済学的含意を導くことに成功した。投稿した雑誌の査読者は、前半の理論部分に公理化がなされていないことに不満のようであったが、応用上極めて有効であるとの判断から、より応用研究を中心とする専門誌への投稿を目指して改訂を行い、この作業がほぼ終わった段階である。 2本目は、純粋理論に関する論文で、主観的確率と客観的確率の理論モデルにおける役割に関するものである。これに関しては、投稿した専門誌の編集者から非常に有益なコメントを得た。似た論文があることの指摘をはじめ、関連する問題点を教示いただいたが、それを踏まえたうえで、改訂を行い、特に申請者の知る限り全く新しい結果を幾つか証明し、論文に組み込んだ。これもほぼ完成している。 3本目は、以前に公表した論文の一般化で、得たいと思っていた結果が得られたが、現在、最終稿の完成を目指している段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文の執筆に関しては区分に書いたようにおおむね順調に進展しているものの、対面での研究報告の機会が失われてしまったために、広く様々な観点からのコメントを得ることに困難を生じてしまった。このため、最終的に論文を専門誌に掲載できるまでに至らなかったと判断している。基本的にはオンライン上で2方向的に行う議論はあまり好んでおらず、ブレーンストーミング、つまり、本来のワークショップのような自由に発言し、自由に議論を行う形式こそが論文を彫琢する上で重要と考えており、また、過去においても実際にそのような経過をたどって論文を専門誌に掲載してきたという経緯がある。 2022年度以降、対面の論文報告ならびにワークショップの機会が増えることを期待しているが、これによって論文の生産性をさらに増すことを目標としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題に即した論文を執筆する過程で、これらに直接関連する新しい問題を数多く見つけることができた。現在進行中の研究が終了した後には、それを早速開始したいと考えている。特に量子力学は、不確実性の問題を考える上で必須と考えている。 それに加えて、この2年余りのコロナ禍の期間中、経済学に限らず、なるべく他分野の文献に目を通すことを心がけてきたが、一見、全く分野を異にする領域にも自分の研究分野(特に数理経済学)と非常に深いレベルで連関しているものを発見した。それは哲学である。経済学は形而上学的な問題、例えば、「存在」とか「絶対的価値」というものを議論することをあえて避けてきたきらいがある。この点に興味を感じたため、カントに始まり、ハイデガーを頂点とするドイツ観念論の文献を濫読してみたが、結果、経済学と形而上学的問題の関係に強い関心を持った。中でも、特異な立場を占めるのがウィトゲンシュタインである。彼は『論理哲学論考』において、経済学における価値の問題どころか、そもそも哲学の問いは、答えのないものを問うている点において、問い自体に意味がない、よって、哲学(形而上学)に意味がないとして、哲学を強烈に批判した。また、同氏は数学についてもかなりの考察を加えていて、これも非常に興味深いものがある。偶然であろうが、最近、海外では哲学と経済学との関係を研究する動きがあり(マルクス経済学といった狭いものではなく)、論文の投稿依頼が何故か私のところにも届いたりしている。現在は、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を徹底的に読み込んでおり、このような問題についても研究を開始したい。(実際、ウィトゲンシュタインの立場から経済学を見直してみる小論を現在執筆中である。)なお、誤解を避けるために蛇足ながら付け加えると、ウィトゲンシュタインは哲学と自然科学を峻別しており、自然科学を否定しているわけではない。
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Causes of Carryover |
当初の研究費申請書にあるとおり、申請した研究費の殆どは旅費に充当している。研究集会への参加、専門的知識の供与を受けるために先方に赴くための旅費・謝金、などである。これらの計画の遂行がコロナ禍のために困難となったため、次年度に繰越が可能であることを担当部署からお教えいただいたことも在り(また、2022年度にはコロナ禍が落ち着いているであろうという専門家等の意見も参考にし)、研究費の使用を1年間、延長させて頂くこととした。 なお、助成金の最終年度における使用については、既に完成している論文やそれに近い段階にある論文(既に前段で説明済み)を国内外の研究集会・ワークショップなどで報告するべく、旅費に充当したいと考えている。
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