2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01567
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
杉本 佳亮 関西大学, 経済学部, 准教授 (70432458)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 雅央 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 助教 (80506783)
大浦 あすか 大東文化大学, 経済学部, 講師 (10784019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 出生率 / 不可逆性 / 教育投資 / 経済成長 / 人的資本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、長期にわたる経済成長のメカニズムを探求することを目的とし、三つの課題から構成される。その中の1つである「教育投資の効率性と経済成長」に関しては順調に研究が進み、その成果として査読付き雑誌 Journal of Population Economics への掲載が決まった。この掲載予定論文の概要は以下の通りである。
本論文は、経済発展の過程において教育投資が過少から過剰の方向へ変化することを理論的に示し、そのような投資の非効率性を改善するための政策提言を試みる。近年の経済成長に関する研究においては、人的資本の重要性が広く認識されている。人的資本とは労働者の質と量によって決定され、労働者の質と量の決定には、親が限られた資源の中でどれだけの子供を生みどれだけの教育を提供するか、という量と質の決定が重要になってくる。
本研究が提示する理論的結論は以下の通りである。経済発展の初期段階(Stage 1)では、人々は教育投資をすることを想定しないで子供を多めに出産する。そのため、仮に予想以上に能力の高い子供が生まれても、子供の数が多く費用がかかるため教育費を捻出できない。これが過少教育投資と過大な出生数につながり、経済全体の人的資本の蓄積が遅れてしまう。対象的に、より経済発展した段階(Stage 2)では、教育投資をすることを前提に少なめに子供を生むため家計にある程度余裕が生まれる。結果、予想以下の能力の子供が生まれたとしても、親は当初の予定通りその子どもたちに教育投資をすることができる。これが過大教育投資につながる。これらの問題の根源は、子供の数を能力判明後に調整できないことにある(出産の不可逆性)。よって、例えばStage 1で子供の数が過大(教育投資が過少)にならないようにするには、子供の数に応じて課税する一方で教育費を軽減するような再分配政策が望ましいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたように、本研究の3つの課題のうちの1つ研究B「教育投資の効率性と経済成長」については、学術雑誌への論文掲載が決まった(ただし、現時点で掲載時期は未定)。しかしこのテーマに関しては、以下で述べるような未解決の問題が残っている。結果的に研究Bは二分割され、進捗状況が遅れる大きな要因となった。しかしその一方で、これは「教育投資の効率性と経済成長」に関しては論文2本分の価値があるとも言えるので、決してネガティブなことではないと考える。
上記の掲載予定論文を改訂する過程において、分析の都合上、理論モデルを単純化することになった。具体的には、人的資本蓄積が技術進歩率に与える影響について省略し、技術進歩率が仮定により与えられることになった。このような技術進歩の外生化により、動学分析が省略さる「教育投資の効率性」に分析の焦点を当てることができたのが、経済成長につながる技術進歩率がどのように決まるのかという点は議論されていない。現在は、この未解決の問題について優先的に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は3つの課題から構成されている(研究A、B、C)。「現在の進捗状況」で述べた現状から、今後はそれらに優先順位をつけて進めていくことが望ましいと考えている。まず、研究B「教育投資の効率性と経済成長」で残された課題である技術進歩の内生化について取り組む。具体的には、人的資本蓄積によってきまる技術進歩を取り入れた理論モデルを構築する。その上で、経済がその成長過程で行き詰まってしまうような「罠」の可能性を示し、さらにそのような状況から脱出するための政策を考察する。モデルの基本的な枠組みについては、先述の Journal of Population Economics 掲載予定論文とほぼ同じになるので、動学モデルの構築にはそれほど時間がかからないと見込まれる。遅くても2021年度中にワーキングペーパーを完成させることを目指す。
残った時間を使って残り2つの研究課題である研究A「政治体制と経済成長」研究C「幼児教育と経済成長」をできる限り進めたい。少なくとも先行研究のサーベイおよび基本モデルを構築することを目指す。なお2021年度前半は、研究代表者(杉本)が米国のBrown Universityにて長期学術研究を行う予定で手続きを進めていた。しかし、新型コロナウイルスの影響により渡航が取りやめになってしまったので、今後の状況によっては国内で研究を進めることになる。
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Causes of Carryover |
「研究実績の概要」で述べたとおり、研究課題の一つに区切りがついたこと、そしてそれ以外の研究に関してはまだ準備ができていないことから、2020年度は学会発表を行うことができなかった。新型コロナウイルスの影響により、研究代表者(杉本)は、研究予定として組み込んでいた米国での長期滞在を断念することになってしまった。これらのことから、今後の研究発表のための予算を残しておくことが、研究費の有効利用になると判断した。
「今後の研究の推進方策」で述べたとおり、2021年度は技術進歩の内生化について優先的に取り組むため、この研究の成果を年度末までに国内外またはオンライン等で発表する予定である。新型コロナウイルスの影響により国内外への出張が難しい状況が続く場合は、出張費は当初の予定より抑えられることになる。その場合は、図書やソフトウェアの支出を増やしたい。なお、Journal of Population Economicsに掲載予定の論文に関してはOpen Access形式による出版予定であるため、そのための費用(USD 2780 + 税)がかかる予定である。
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