2019 Fiscal Year Research-status Report
プロト・ポリティカル・エコノミストとしてのJ.バトラー:自然神学・利己心・蓋然性
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19K01571
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 名誉教授 (40175980)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 哲人 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (70735828)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自然神学 / 理神論 / 蓋然性 / 利己心 / 経済人 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元(2019)年の初年度は、共同論文集としての我が国最初の本格的バトラー研究書刊行の構想を確定するとともに、本科学研究費研究課題に直接かかわるE. C. Mossner, Bishop Butler and the Age of Reason, New York; Macmillan Company, 1936)の科学研究費メンバーと関連研究者による共同翻訳事業を推進した。 前者については、科学研究費採択以前からの研究会を継続する形で第5回バトラー研究会(国際基督教大学・ERB257号室、6月23日)を開催した。ここでは論文集での各自のテーマ紹介とその検討を行うとともに、18世紀英国の重要な思想家・聖職者であるにもかかわらず忘れられていたJ. バトラーが、近年、ジョン・ロールズ『政治哲学史講義』(岩波諸点、2011年;岩波現代文庫として2020年に再刊)によってバトラーの利己心と良心の問題が現代的関心から久々に大きく取り上げられたように、本研究課題がいかに時宜を得たものであるかを確認した。後者については第6回バトラー研究会(東京大学本郷キャンパス「小島ホール」第2セミナー室、11月24日)として、研究協力者・大久保正健による試訳をもとに研究代表者・有江大介、研究分担者・松本哲人及び研究協力者・木宮正裕を中心に、その改良と訳注の追加を、関連研究者の助力を得ながら序文と全9章を分担する形で行った。2020年の夏期休暇までに翻訳稿を確定し、刊行に向けて出版社との交渉に入る予定である。 なお、3月中に予定されていた、青木滋之氏(中央大学)を招聘しての18世紀の英国自然神学についての報告を中核とした第7回バトラー研究会は、新型コロナ禍によって6月末か7月初旬に延期せざるを得なくなったことを付記しておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」に記載したように、本研究課題の2つの柱の一つ、日本初となるモスナーの古典的研究書の共同翻訳事業については、既にA4:Word標準レイアウトで約200ページに及ぶ暫定翻訳稿が作成されている。残る作業は、原注に加え大量に追加予定の訳注の整備と本書に登場する専門用語や400名以上の人名の日本語表記の統一である。この部分はかなり順調に進んでいると評価できる。 しかし、もう一つの柱である共同論文集の刊行に向けての作業であるが、1回目の研究集会を令和2年6月に開催たものの、招聘研究者の知識提供と10名強の執筆予定者による最初の原稿の報告と討論を予定していた3月の令和2年度の第3回研究集会が、新型コロナ禍によって延期になってしまった。 とはいえ、研究代表者、研究分担者だけでなく研究協力者やそれ以外の関連研究者の翻訳や共同論文集に向けての組織化に成功したことと、バトラー自体の重要性についての認識を関係者全員に共有することができたことは、初年度としては十分な成果と言える。 以上から、全体として「(2)おおむね順調に推移している」との進捗状況と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の研究推進について、令和2(2020)年の第2年度では、第一に、既に第1年度に暫定訳稿を作り上げたE. Mosnner, Bishop Butler and the Age of Reason (1936) の最終訳稿を9月期には確定し、出版社との交渉に入り刊行を目指す。本訳書は、忘れられた重要思想家・神学者と言われるJoseph Butler(1692-1752)に関する今なお最も定評ある研究書であり、我が国最初の翻訳紹介となる。また、翻訳作業の過程において、原注に加えて膨大な訳注と懇切な「解説」を付与することを予定している。このことにより、我が国の当該領域の研究では遅れていると言われる、18世紀啓蒙期社会経済思想の背後に存在するキリスト教の意義と役割について、新たな知見を我が国の当該分野の研究に提供することとなろう。 第二に、上記訳業に並行して、研究代表者、研究分担者、研究協力者およびそれ以外の関連研究者による、Joseph Butlerを中心とした18世紀啓蒙期以降の英国経済思想史の再検討についての、複数回の共同研究集会を開催する。これは、本科学研究費の研究年度が終了した際には、上記訳書と同様に、我が国最初のButlerについての本格的な論文集に結実させる計画であり、環境と条件が許せば欧米当該分野への我が国からの発信として英文での刊行も目指している。本年度以降、この方向での研究推進を加速する所存である。 第三に、具体的な研究活動については、現下の新型コロナ禍に鑑み極力インターネット環境を利用したOnlineによる研究集会を開催することとする。次回の第7回Butler研究会は、この条件の下で研究分担者・松本哲人によるZoom会議として、6月末~7月初旬を予定している。
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Causes of Carryover |
当該課題に関する研究集会を、第1年度内の3月中に第7回バトラー研究会として開催し、招聘するゲスト報告者からの知識提供とそれについての議論を行う予定であった。それが新型コロナ禍によって開催できなくなった。これに代替すべきOnlineでの遠隔研究集会も、必要な技術的設定の準備時間不足のため開催に至らなかった。その結果、謝金、交通費、会議費など、この研究集会関連に支出を予定していた予算の執行ができなくなったために、その部分の次年度使用が生じることとなった。 具体的には、6月末開催のオンライン研究集会での知識提供に対する謝金、資料の紙代、複写費、郵送費、プリンター用インクなどの消耗品に充当する。
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