2021 Fiscal Year Research-status Report
プロト・ポリティカル・エコノミストとしてのJ.バトラー:自然神学・利己心・蓋然性
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19K01571
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 名誉教授 (40175980)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 哲人 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (70735828)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イングランド国教会 / 商業社会 / 利己心 / 蓋然性 / 自然神学 / 功利主義 / 経済人 |
Outline of Annual Research Achievements |
18世紀ブリテン思想史と社会的影響力の両面において枢要でありながら、今日、本国でも忘れられた神学者、思想家となったJ.Butler(1692-1752)を再発掘することが本科研費研究の課題である。この分野の古典である未翻訳の研究書の共同翻訳と、研究グループによる共同研究の成果を日本語と英語双方で出版することを目指している。 2021年度は以上の両面から、「バトラー研究会」をコロナ禍のためZoomにて一般にも公開する形で過年度に引き続き、以下の4回開催した。 第11回バトラー研究会(2021年7月18日)①報告:「18世紀商業社会とキリスト教:バトラー『説教』に見る金儲けと貧富について」有江大介(横浜国立大学・名)、②資料紹介:「バトラーの人間本性論について」大久保正健(研究協力者)、第12回バトラー研究会(2021年9月19日)①報告「ジョゼフ・バトラーにおける心理学的利己主義批判について」山二滉太(京都大学・院)、②共同翻訳本の進捗状況の確認と共同論文集についての協議、第13回バトラー研究会(2021年11月28日)①報告:「バトラーの『類比』」大久保正健、②報告「ジョゼフ・バトラーとアダム・スミスの比較分析」大田浩之(一橋大・院)、第14回バトラー研究会(2021年1月23日)①ジョゼフ・バトラーの憤慨思想と共感的社会論――18世紀市場社会論の嚆矢」木宮正裕(研究協力者・常葉大)、②「バトラーとルソー:その倫理思想と人間本性論の比較」(吉田修馬・上智大)、③共同翻訳本と英文論文集について出版社との協議の中間報告。 以上の共同研究活動を通じて、本年度は成果発表に向けてその具体的な全体像が明瞭となり、候補出版社との接触を開始した。ただし、コロナ禍により研究代表者が報告予定であった国際学会が中止となった。また、同様に、成果のとりまとめスケジュールが1年延期を余儀なくされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に示したように、年間4回の研究集会を開催し本科研費の研究課題に直結する報告、討議を行うことができた。その結果、まず、本共同研究の2本柱一つ、未訳の古典的研究書の共同翻訳原稿の最終調整を終えて候補出版社との協議に入っている。英文共同論文集については、特定の出版社への打診を始めた。また、もう一つの柱である共同論文集刊行に向けての継続的な研究集会をコロナ禍ではあったがZoomにより支障なく実施できた。 しかし、デジタル化が急速に進む出版事情によって、共同研究の最終段階の研究成果の取りまとめに従来とは異なる負荷を課される可能性が出来するなど、論文の形式や長さなどに大きな変更が想定されることとなった。これが「おおむね」と評価する理由の一端である。 共同研究活動自体については、これもコロナ禍によって研究集会に予定していた報告者すべてを招聘することが出来ず、回数が4回にとどまった。特に内容的にも数量的にも本来中核となるべき若手研究者層は、学務の煩雑化や遠隔授業の拡大による教育負担の予想外の拡大等により必ずしも十分な研究時間が確保できなかったと推察される。これが、「おおむね」と評価するもう一つの理由である。 また、以上のような状況で、当初計画していた外国学会での報告と討議、日本開催の国際学会への報告と討議、英国の大英図書館やダラム大学での資料調査等は前年に引き続きほぼ中止となってしまった。唯一、ISSP(Institute for the Study of Scottish Philosophy)at International Christian University, Tokyo, Japan, 25-26 March 2022における、研究代表者および研究会メンバー2人による英語報告が例外であった。これらも不可抗力とはいえ「おおむね」とする理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、コロナ禍によって1年間の研究期間延長が認められたことを奇貨として、上記2本柱の研究計画のうち、共同翻訳本(E. S. Mossner, Joseph. Butler and the Age of Reason, 1936)の刊行については目処が立ったので、共同研究の成果を和・英の共同論文集として刊行することに注力する。そのために、当初からの研究代表者、研究分担者、研究協力者に加え、共同翻訳に関与した多くの若手研究者、これまでの研究集会でのゲスト報告者などから最終的な執筆者を選び、論文集の構成を確定する。その上で、最終原稿に直結する報告を主とした研究集会を、引き続き連続的に開催する。 具体的には、共同論文集への各自の予定タイトルは既に概ね集約され、「執筆要項(案)」も提示されているので、上記の研究スケジュールのもとで研究集会を重ねつつ最終的な論文タイトルと原稿や字数を確定して行きたい。また、和文より英文共同論文集の企画が先行しているこれまでの経緯を考慮し、2023年1月末を英文原稿の第一次締め切りとして集約することがすでに研究会メンバーの中で了解されている。原稿集約後、外国出版社の要求する英文水準を確保するため、それらを直ちにネイティヴ・チェックにかける予定である。併せて、和文論文集についても英文論文集の計画に並行して進め、和文原稿は2023年度の科学研究費の研究成果公開促進費への応募を想定した時期での完成を目指す。これらを念頭に、既に15回開催している研究集会を今後4回は、2022年度末までには開催する。 以上に併せて、研究代表者、分担者をはじめ研究グループの各自が完成原稿をもとに本年度の関連する諸学会で当該課題について報告することを目指す。これにより、重要な思想家でありながら我が国ではほとんど知られて来なかったバトラーについての一層の周知を図りたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた最大の理由は、成果発表の一環として研究代表者が参加予定であった第16回国際功利主義学会(ISUS:米国イリノイ大学シカゴ校で2021年7月に開催予定)が、既に1年延期のあと結局は中止になってしまったためである。そのため、研究集会でのゲストによる報告への知識提供や研究補助への謝金、文具・プリンター用インク等の消耗品等への少額支出にのみ補助金が充てられた。結果として、執行されなかった外国旅費が次年度使用分の大部分となった。 しかし、問題は日本だけでなくコロナ禍の関連各国の大学や学術団体の2022年度の状況が不確実なことである。実際、上記国際学会が当初は今年6月以降にイタリア・ローマ大学での開催に延期・変更したにもかかわらず、今年に入り再び中止となってしまい、今年度中の外国旅費の執行機会は失われた。こうした状況下での科学研究費の趣旨に最も適合する代替的な支出として、英文論文集という形での成果発表を円滑に進めるための英文校閲費に補助金を充てることとした。学術論文に対する定評のある英文校閲サービスに10~12本ほどの論文を委託することで70から80万円前後を支出することが、今年度の使用計画の主たる内容となる。残りは昨年度のあるような通常の支出に充て、新たな書籍や機器の購入は行わない。 ただし、以上の計画が果たして予定通り実施できるかは未だ不確かであると言わざるを得ない。
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