2023 Fiscal Year Research-status Report
プロト・ポリティカル・エコノミストとしてのJ.バトラー:自然神学・利己心・蓋然性
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19K01571
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 名誉教授 (40175980)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 哲人 松山大学, 経済学部, 教授 (70735828)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ジョゼフ・バトラー / アダム・スミス / イングランド国教会 / 説教 / 良心 / 経験論 / 蓋然性 / 商業社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
その重要性にもかかわらず、日本では知られず本国でも今日では忘れられた神学者・思想家となったJ.Butler(1692-1752)を再発掘することが本科研費研究の目的である。具体的には、未翻訳の古典的研究書の研究グループによる共同翻訳と、共同研究の成果を日英両言語で出版することを目指してきた。 2023年度は、過年度より続く上記の共同翻訳作業がほぼ終わるととともに「バトラー研究会」での報告が一巡したので、出版契約を結べたSpringer Nature社から10人の執筆メンバーによる英文共同論文集Joseph Butler: A Preacher for Eighteenth-Century Commercial Societyの刊行に注力した。 ・第1回英文校閲と第1次草稿の集約(2023年6月まで):10人による全11章(研究代表者・有江が2章分執筆)の原稿をGrammarlyによる文法チェックにまずかけ、その結果の各人による確認を経ての第1次草稿を代表者・有江のもとに集約した。 ・第2回英文校閲と第2次草稿の集約(2023年10月まで):第一次草稿を本科学研究費の「英文校閲費」により国際学術論文用の校閲を行うEditageに委託し、8月末までに校閲済み原稿を集約し、その後、各執筆者がその校閲確認と必要な修正を行った。 ・Springer Natureへの最終稿入稿と編集部によるWeb校正(2024年2月まで):2023年10月中に代表者・有江から順次Springer編集部に各人の最終稿を入稿し、e-Proofingの一次校および再校正を経て最終稿が本年2月に確定し、3月末にOnline版とハードカバーが刊行された。 以上のプロセス全体が、研究成果の英語による公表だけでなく、各執筆者、特に若手研究者にとって英文による今後の業績発表のための貴重な訓練期間となったと評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に示したように、2023年度当初では本科研費研究の2本柱一つ、古典的研究書の共同翻訳原稿が集約され、その最終調整の段階であった。ところが、この企画の中核を担った研究者の突然の病気により出版社との交渉が頓挫してしてしまった。そのため、2023年度は過年度までの研究集会に代えて、英文論文集の執筆とその公刊を研究活動の第一義的な目的と定めた。英文論文集には10人の執筆者が参加し、上記「研究実績の概要」の通りその刊行の実現を見ることが出来た。 確かに、英文共同論文集が刊行できたことは大きな成果であったが、日本の関連諸学会の研究者に向けての同一テーマでの和文論文集の刊行はまだ準備段階にある。その一方で、もう一つの課題である翻訳本の刊行については原稿レベルでは目途がついている。以上をもって、全体として「おおむね順調に推移している」と評価するものである。 より具体的には、共同研究については、本科研費による研究グループの一人が関連する研究課題にて2024年度の新たな「基盤研究(C)」の採択を得たので、本年度は新科研費を中心とした今後数年の研究活動への過渡期と位置付くことになる。すなわち、過年度に多数開催した「バトラー研究会」を発展的に再編して共同研究の幅を広げ、そこで目指す成果としては、まずは共同翻訳本の刊行であり、次に、英文共同論文集の日本人研究者を読者に想定した日本語版の刊行である。その意味でも「おおむね」と評価しても良いと考えている。 ただ、当初計画していた国際学会での報告や英国での現地文献調査、英米の対応する研究者とのZoom等による研究交流など、すべてが過年度では延期、中止となってしまい現在に至ってしまったことも、主にコロナ禍による不可抗力とはいえ「おおむね」とする理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本科学研究費による研究は、コロナ禍による再延長が認められた。しかし、2023年度は10人の執筆者による英文共同論文集の刊行のための「英文校閲費」に多大な支出をした結果、2024年度に向けてはわずかな残金となった。 そのため、2024年度は費用の面からは、ほぼ完成している翻訳本の原稿を再集約し出版社に納入する最終稿を完成させる業務にその残金を充当する。 経費の事情から離れて、研究課題に即しては上に示した共同研究メンバーの新たな科学研究費「基盤研究(C)」によって研究会活動を行う。その際、18世紀イングランドの国教会聖職者・バトラー主教を中心的な検討課題とした「バトラー研究会」から、より時代と地域と領域を広げた「近代イギリス思想とキリスト教」の研究会に発展的に再編・拡大することを計画している。 最終年度の2024年の本科研費の役割は、したがって、新たな研究グループによる研究活動推進の側面援助を担うことになる。その目指す成果としては、①Mossner(1936)Bishop Butlerの共同翻訳の完成とその刊行、②上記Joseph Butlerの日本語版にあたる『バトラー主教:18世紀商業社会の説教者』(仮題)の原稿集約と刊行、以上である。既に、これまでの研究会メンバーに現況確認依頼と2024年度、2025年度に向けての研究計画の雛形を提示している。
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Causes of Carryover |
上記「8.今後の研究の推進方策」に過年度の経緯を概括したように、2020年以降のコロナ禍による当初の研究計画の大きな変更の余波が、研究期間の再延長ととともに少額とはいえ基金の次年度使用が生じる原因となった。 補助金の具体的な使用計画も、上記の「推進方策」に示した予定する研究活動の内容に即した以下のものとなる。 ① 翻訳書の刊行に関わる原稿の複写費、複数の出版社との協議のための交通費等の経費など。② 刊行を予定する共同論文集『バトラー主教:18世紀商業社会の説教者』(仮題)の最終稿確定のために開催する研究集会のゲスト報告者への謝金、必要な通信費等。③ 以上の①、②を遂行するための人件費を含めた事務的諸経費等。 以上の使用計画のもと、最終年度の研究計画を完遂する。
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