2019 Fiscal Year Research-status Report
Contextual analysis of Koopmans' mathematical economics
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19K01574
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高見 典和 首都大学東京, 経営学研究科, 准教授 (60708494)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 経済学の歴史 / クープマンス / スティグラー / シカゴ学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
クープマンスを始めとする20世紀半ばの数理経済学の発展に多大な貢献をなした経済学者について幅広くサーベイを行い,著作および展望論文を執筆した。著作は,野原慎司氏と沖公祐氏と共同執筆した『経済学史――経済理論誕生の経緯をたどる』(日本評論社,2019年7月)であり,全18章中8章を担当した。ここでは,計量経済学,ゲーム理論,一般競争均衡理論などの既存研究をまとめ,従来の日本の経済学史研究で議論されることの少なかった領域に関する一貫した歴史叙述を行った。さらに,学術誌『経済学史研究』からの依頼により,同様の内容をより簡潔にまとめ,英文の展望論文を執筆した。すなわち,"The Role of the Cowles Commission and RAND Corporation in Transforming Mathematical Economics in the Mid-twentieth Century."(『経済学史研究』第61巻第1号,pp. 94-103,2019年7月)という論文である。この論文では,特にコウルズ委員会とランド研究所という2つの組織の焦点を当てたが,結論として,従来の経済学史研究に多い,経済学者個人に焦点を当てる研究以外にも,経済学者が所属した組織や集団を説明単位として用いる方法も可能であると提案した。 これ以外には,以下の研究作業を行った。第一に,クープマンスの方法論に関する一次資料であるThree Essays on the State of Economicsを読解し,クープマンスの方法論が数理モデルに焦点を当てたものであったことが判明した。第二に,同時期に独自の実証研究を展開していたジョージ・スティグラーについても一次資料や既存研究を読解した。これらの研究を通して,20世紀半ばに経済学の数理化および実証化を幅広く捉えていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に述べたように,著作および展望論文という具体的成果をあげることができたため。また,クープマンスの活躍した20世紀半ばの数理経済学や実証研究について一次資料を読解したため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては,クープマンスと同時代および少しのちの時代(およそ1950-70年代)の統計的研究にも焦点を当てることを計画している。クープマンスはマクロ経済に関する計量モデルの構築を目指したが,それとは異なる実証研究の方向性を志向したのが,ジョー・ベインやジョージ・スティグラーらのミクロ経済に関する研究であった。これまでの調査で,以下のような断片的な知見を得た。スティグラーは,独自の科学観を持っていた。彼は盟友のフリードマンとは異なり,一般大衆の啓蒙には悲観的で,学者コミュニティのコンセンサスを変化させることを重視していた。そのためには,政府よりも民間財団の財政的援助が重要であるとみなしていた。なぜなら政府の科学支援は,既存の科学者に管理されているため,保守的になる傾向があると彼は考えたからである。実際に,スティグラーは,ドラッグストアチェーンが拠出する財団の援助を受けて,産業組織論の研究活動を推進した。このように学者コミュニティの意見を変えるために,彼はミクロ的な経済政策に関する実証研究を重視したのである。代表的には,政府による規制が電力価格を引き下げるのではなく,むしろ引き上げていると主張した,クレア・フリードラントとの共同研究がある。またスティグラーの知的環境を考察するため,シカゴ学派に関する既存研究も調査している。そこでは,1950年前後のアーロン・ディレクターの独占に関する研究がのちのシカゴ学派の方向性に大きな影響を与えたことなどの知見が得られた。このように今後は,20世紀後半の統計的研究の展開を幅広く捉えて,経済学の歴史に対する見方をより豊かなものにしていく。
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Causes of Carryover |
2-3月に資料調査を行う予定であったが,海外渡航の危険性が増しており延期したため。
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[Book] 経済学史2019
Author(s)
野原 慎司、沖 公祐、高見 典和
Total Pages
320
Publisher
日本評論社
ISBN
978-4535559271
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