2020 Fiscal Year Research-status Report
初期近代ブリテンにおける紙券信用と基金をめぐる議論の継承について
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19K01579
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Research Institution | Ohtsuki City College |
Principal Investigator |
伊藤 誠一郎 大月短期大学, 経済科, 教授(移行) (20255582)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 初期近代 / イギリス / 銀行 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、名誉革命以前のイングランドにおいて銀行制度を議論するときに、担保、抵当、基金といった言葉で表現される紙券の価値の裏付けへの信頼、確かさが重要であるということについて論じた、本研究の前提、出発点となるわたくし自身の英文著作の刊行のための契約を2019年度中にRoutledge社とかわし、原稿も提出していたが、本年度には、その校正など出版に向けての最終作業をおこない、11月刊行した。これに伴い、約80冊を研究者等関係者に献本し、その後著作内容についても多くのフィードバックを得ることができた。第二に、短期公債などを紙券として用いる諸提案を分析し、チャールズ・ダヴナントの信用論の特徴をこの文脈のなかで明らかにしようとする原稿を2019年度にオーストラリア経済思想史学会大会で報告したが、これを補足する一次文献を調査・分析した。第三に、ジョン・ローの1705年頃の土地銀行案や『貨幣と交易』における銀行論についての分析をした原稿を、2019年度に続けて作成した。これはアメリカ経済思想史学会大会で報告する予定であったが、大会が中止となった。第四に、本研究の最終目的である英文著作刊行に向けての、その内容のスケッチともなる原稿を作成し、5月に開催される予定だった日本英文学会のシンポジウムで報告することになっていたが、このシンポジウムについてはキャンセルし、2021年度に報告することにして、内容の改定を続けた。ここでは、ダヴナント、ロー、サー・ジェームス・スチュアート、アダム・スミスの、信用についての理解とその継承関係を、信頼という社会的・倫理的な視点からとらえなおすことを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究は、コロナ禍のなかで成果を国際学会で報告することができなかったこと、またイギリスでの資料収集ができなかったことを除いて、ほぼ当初予定していた通り進んでいる。本研究の基礎となる英文著書の刊行は予定していた通り本研究の二年目までに終わり、その内容に基づいた、チャールズ・ダヴナント、ジョン・ローの文献調査・分析も予定通り進んでいる。また、その同時期の関連文献の調査も進めている。また、当初、本研究の三年目、四年目で着手する予定であった、ジェームス・スチュアートとアダム・スミスの信用論の調査・研究も進んだが、それとともに、多くの関連する調査・分析が必要であることを見出し、これらの研究はこれから進めていかなければならない。また、2020年度は当初予定していた国際学会報告がキャンセルとなり、こうした場で期待していた意見・情報やコメントを得られず、また、なによりもイギリスでの、手稿類を中心とする資料調査が滞ったままである。ただし、日本英文学会シンポジウムでの報告原稿を作成する中で、最終的な目的である、17世紀末の土地銀行論争からアダム・スミスに至るまでのブリテンの銀行・信用をめぐる論争史の執筆へ向けての全体像を描くことができたことは有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の国内外学会の相次ぐキャンセルで、報告に向けてまとめた複数の原稿が、未発表のままで手元にあるが、それらを、関連する新たな資料調査・分析に基づいて、拡充していく。また、それらは本研究の開始時点においては想定していなかったほど大きなテーマとして、独立した原稿としてまとめていく必要があるかもしれず、それは資料調査の進行のなかで確認する。例えば、ダヴナントの公信用を用いた紙券論は、それ以前、また同時代にも同様の議論が多くあった。また、ジョン・ローの土地銀行論は、彼のミシシッピー計画とは別に、どのように同時代のブリテンの銀行論・信用論の議論と接続していたかについてより詳細な調査・検討が必要である。これまでのロー研究では必ずしも十分に論じられていなかった、1690年代の土地銀行論争との関連、またローの貨幣・信用論自体が、その後どのように論じられていったかも、とくにスチュアートやスミスを中心に注意深く確認する必要がある。ミシシッピー計画の失敗とローの理論は必ずしも一体のものとしては論じられないからである。また、スチュアートとスミスの信用論の類似点は多く、いずれも同じ文献からアムステルダム銀行についての情報を得ていたことも、興味深く、これについても十分に調査していく必要がある。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のなかで、当初利用を予定していた、海外学会出張、イギリスでの資料調査の費用の支出がなかったが、英文著作の献本費用がその代わりに必要となった。ただ、それでもいくらか残り、これは元来2020年度に使うことを予定していた費用に充てることとしたため。
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