2020 Fiscal Year Research-status Report
Natural law thought in political economy in early nineteenth century Britain
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19K01580
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Research Institution | Ibaraki National College of Technology |
Principal Investigator |
井坂 友紀 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 准教授 (60583870)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイザック・バット / 権利論 / 自然法学 / エドマンド・バーク |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,昨年度より研究を進めているアイザック・バットの経済思想について,その特徴である権利論に影響を与えた思想を明らかにすることを課題とした.本研究で浮かび上がった思想家の1人がエドマンド・バークであった.バットが晩年に至るまで繰り返し引用した一節,「社会があらゆる技術と力を合わせて彼のためになしうる全てのことに対する権利」は,『フランス革命についての省察』のものであった.「保守主義の父」という評価からすると,権利論の展開においてバークを持ち出すことの妥当性には疑問符が付されるかもしれないが,バークの言説を注意深く検討するとバットの意図は理解できる.『自然社会の擁護』においてバークは,「政治社会」が歴史的には「暴政」であり「人類の自然権の侵害」であること,アテナイなどの「自由国家」についても「その住民の大多数を考察し人類の自然権を見るばあい,それらは実際のところ,みじめな抑圧的寡頭制であるも同然である」ことがわかるとしている.もちろん,本書の意図は,“それでも人為社会を捨て自然状態に帰るわけにはいかない(のだから啓示宗教を捨てて自然宗教を擁護するわけにはいかない)”ことを伝えることにあった.とはいえ,バークが「自然権」という観点の意義を認めていなかった,あるいはその侵害を問題視しなかったと主張するのは困難である .この点は『カトリック刑罰法論』におけるバークの同法批判のうちにもよくあらわれている.「われわれの自然権の保全と確実な享受が市民社会の偉大なそして究極の目的であること,したがってまたあらゆる形態の政府は,その政府が完全にその支配下にあるところのその目的に役立つ限りにおいてのみ善である ... 自然権の保護のための承認される体制のために自然権を奪い去るか少なくとも停止すること...はその影響において圧政的で残酷であるのと同じくらい,本末転倒で馬鹿げている.」
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大は,本研究の遂行全般に大きな影響を及ぼした.第1は,アイルランドやイギリスへの渡航が困難となったことである.これにより,アイルランドについて論じた経済思想家の資料の収集が,当初想定していたよりも困難となった.第2は,東京への出張を控えざるをえなくなったことである.当初の予定では最低でも月に1回は国立国会図書館に足を運び,UK Parliamentary Papers等の資料収集を行うはずであった.これが困難となったことにより,議会における政策論議にみられる自然法思想の影響についての研究の進捗が不十分である.最後は,遠隔授業への対応を迫られたことである.とりわけ2020年度の前期期間は遠隔授業の準備,具体的にはオンデマンド型の講義動画の作成や毎回の課題の用意と採点で,多くの時間が取られることなった.これにより,当初の予定よりも研究時間の確保が困難となった.しかしながら,アイザック・バットの経済思想の特徴とその権利論に関する研究に限って言えば,概ね順調に研究が進んでいる.既に2020年度初めの時点でバットの主要な経済関連文献は全て読み込みが終了した.それらの検討結果については,上述のバークの影響等も含めて整理を行い,2020年10月に経済学史学会第84回全国大会にて報告を行なった.この報告結果については,討論者や会場の先生方から頂いた貴重なご指摘を踏まえて更なる深掘りを進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進の方策は,大きく2つある.1つは、アイザック・バットの経済思想の特徴とその権利論についての検討結果をまとめることである.上述の通り,このテーマについては既に学会発表を行なっている.発表時に頂いた指摘等に応える形でこれを論文にまとめ,2021年度中のできる限り早い段階で投稿・受理を目指す.いま1つは,バットの経済思想にも影響を与えたドイル(James Wallen Doyle, 1786-1834)の著作の読み込みである.バットは1840年講義の終盤で,イングランドにおける新救貧法批判や労働時間短縮運動のうちに「労働者の権利に対する保護があるべきだという一大原理」が見出されると述べた.この一文に対する脚注の中で,バットは「貧者の神聖なこれらの諸権利を主張した」偉大な人物の1人としてドイルを挙げた.ドイルはカトリック司教であり,オコーネルと関係が深く,十分の一税戦争の知的リーダーでもあった.宗教的にも政治的にも相容れない立場にありながら,バットは彼の「高い知性,大いなる熱意,そして貧しい者たちと抑圧された者たちへの深く熱心な同情」を称賛したのである.実際,1825年の『アイルランドの状態に関する手紙』や,1831年の『アイルランドの貧民のための法規定の創設に関するトマス・スプリング・ライスへの手紙』に目を通すと,貧民の救済権とそれを満たす義務に関する議論が―時に経済学に対する厳しい批判とともに―展開されていることがわかる.以上を踏まえ,ドイルの経済思想について,国内でアクセスできる文献を全て収集し,検討を進めていく予定である.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により,国内・海外出張を見合わせざるを得なかったため.
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Research Products
(1 results)