2021 Fiscal Year Research-status Report
Natural law thought in political economy in early nineteenth century Britain
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19K01580
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Research Institution | Toyama College |
Principal Investigator |
井坂 友紀 富山短期大学, その他部局等, 准教授 (60583870)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | George Poulett Scrope / Theory of Rights / Ireland / Colonization |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の最大の研究実績は,『経済学史学会』に投稿・掲載された論稿「Colonization and Ireland in G. P. Scrope's Political Economy」である.スクロウプの経済思想一般については既に一定程度研究を進め論文にもまとめていた.今回は彼の植民論とアイルランド論を取り上げ,それらの議論の根底に権利論があったことを明らかにした.スクロウプは,一般論として,労働市場の供給過剰を緩和する補助的手段として植民に賛成していた.また彼は,自身の経済学の特徴である政治的・社会的制度の重要性,とりわけ土地制度の重要性の強調や,マルサス人口論批判の妥当性を証明するものとしても植民地を捉えていた.しかしながら,他方で,当時植民に関する理論・実践を主導していた「組織的植民論者」に対しては,スクロウプは批判的であった.周知の通り,組織的植民論者の代表的存在であるウェイクフィールドは,植民地の土地に「十分な価格」付し,移民が容易に土地所有者となるのを妨げることで,植民地において労働力を確保するとともに土地販売収入を移民補助の財源とする政策を打ち出した.スクロウプはこの組織的植民論を「過ちの上に築かれている」と批判するとともに,組織的植民論者が主張していたアイルランド移民の促進,あるいはそれと一体となった同地における大規模農業の確立に反対した.こうした批判の背景には彼の小規模農業に対する肯定的評価があったわけであるが,それには彼の権利論が深く関係していた.土地に対する権利が一定程度保障され救貧制度も整備されたブリテンにおいては移民は「選択の自由」の問題であった-それゆえ反対はしなかった-のに対して,アイルランドにおいては移民は「生まれた土地に生きるという至上の権利」が保障されていないことの表れであるがゆえに,賛同できるものではなかったのである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今後の研究推進の方策は大きく2つある.1つは、学会誌に投稿したアイザック・バットの経済思想に関する論文について,掲載に向けた適切な対応を図ることである.この論文では,アイザック・バットの経済思想の特徴を,彼の経済学批判とそのベースになっている権利論に焦点を当てて論じた.彼は交換価値の増大を人々の豊かさの向上と同一視する経済学を批判する観点から,交換価値ではなく効用を重視する立場をとった.また,彼は保護関税や土地問題に対する政府の積極的介入に賛同し,主流派経済学のレッセ・フェール原理を批判した.こうした主張の根底にあったのが人々の生存権,具体的には生まれた土地で労働し生活していく権利に関する議論だったのである.以上のような論理立てでこれまでの研究成果をまとめ上げたこの論稿は,現在,査読過程にある.論稿の振り返りや資料整理に努めつつ,査読者の疑問や指摘に対して的確な加筆・修正等を行う.2つ目は,バットの権利論に影響に与えた経済思想の検討の継続である.既にバークとドイル(James Wallen Doyle, 1786-1834)についてはその権利論を中心に研究を進めてきたが,最終年度では特にバークリー(George Berkeley: 1685-1753)の議論を検討する.バットは母方を通じてバークリーと血縁関係にあり,2人の子供のクリスチャンネームもバークリーであった.また彼は,1865年に,「バークリーとその著作」という公開講義を行った.そして1867年のバットの著書The Irish Queristは,バークリーのThe Queristへのオマージュであった.以上を踏まえ,バークリーの重要な著作を読み込みを通じてバットの経済思想への影響を明らかにする.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も新型コロナウィルス感染拡大は,本研究の遂行全般に大きな影響を及ぼした.第1は,アイルランドやイギリスへの渡航が引き続き困難となったことである.これにより,アイルランドについて論じた経済思想家の資料の収集が,当初想定していたよりも困難となった.第2は,東京への出張を控えざるをえなくなったことである.当初の予定では最低でも月に1回は国立国会図書館に足を運び,UK Parliamentary Papers等の資料収集を行うはずであった.これが困難となったことにより,議会における政策論議にみられる自然法思想の影響についての研究の進捗が不十分である.最後は,遠隔授業への対応である.遠隔授業の準備,具体的にはオンデマンド型の講義動画の作成や毎回の課題の用意と採点については昨年度よりも短時間で行えるようになった.とはいえ,やはり全て対面で実施する場合に比べ,研究時間の確保は難しいものとなった.一方,こうした制約にありながらも,研究の成果は着実に形になっている.「研究実績」で述べたように,スクロウプの植民論及びアイルランド論と,その根底にある権利論については論文にまとめ経済学史学会に投稿し,昨年度末に無事刊行された.また,アイザック・バットの経済思想の特徴とその権利論に関する研究についても,重要な資料を国内で全て入手することができ,それらを読み込んで論文の形にまとめ,昨年度末に経済学史学会に投稿するところまで漕ぎ着けた.次年度も新型コロナウィルスの感染拡大による影響は避けられないものと予想されるが,査読結果に対して的確な対応が図れるよう,全力を尽くす所存である.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,新型コロナウィルス感染拡大の影響により,予定していた海外渡航や国内出張が困難となったためである.次年度分の助成金は,資料収集に関して"国内でできること"を最大限実行すべく,海外新聞資料のサブスクリプション等に使用する予定である.
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Research Products
(1 results)