2022 Fiscal Year Annual Research Report
Natural law thought in political economy in early nineteenth century Britain
Project/Area Number |
19K01580
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Research Institution | Toyama College |
Principal Investigator |
井坂 友紀 富山短期大学, 経営情報学科, 准教授 (60583870)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | George Poulett Scrope / Isaac Butt / 権利論 / 自然法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の最大の研究実績は,『経済学史学会』に投稿し掲載された論稿"Isaac Butt’s Criticism of Political Economy and the Theory of Rights"である.本論文では,Isaac Butt (1813-1879)の経済思想について,彼の経済学批判とその根底にある権利論を中心に明らかにした.バットは自由貿易が常に有益であるという議論を批判し,失業している貧者を仕事につけるため自国の製造業に対する保護関税を提唱した.また彼は,飢饉時の食料供給を市場に委ねるというラッセル内閣の政策方針を批判し,政府の積極的関与を求めた.さらに彼は,地主による土地清掃とその結果としての移民を批判し,アイルランドの小作農の権利強化を主張した.こうしたバットの議論の根底には,権利論が存在していた.彼はすべての人々,とりわけ貧しい者たちが,社会が彼らにできることに対する権利を有している点を何度も強調した.地主による土地清掃はこの権利,あるいは「社会契約」の侵害であり,法と財産権に対して自然的正義と自然権のために検証することは政府の義務となるのであった. 期間全体を通しての研究成果を総括すれば,19世紀前半の非主流派経済思想においては,これまで想定されてきた以上に,「権利の言葉」が用いられていたということになるだろう.バットとほぼ同じ時期に活躍したスクロウプは,ブリテンの労働者の移民に賛成する一方でアイルランドの貧民の移民には強く反対したわけであるが,これには「生まれた土地に生きるという至上の権利」の保障の有無という論点が深く関わっていた.アイルランドにおいては資本の生産力が貧しい者たちへの十分な生活資料供給を約束することはなく,「市場の言葉」が説得力を持たなかったが故に,スクロウプもバットも共に「権利の言葉」の話し手となったのである.
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Research Products
(1 results)