2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01603
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
岩田 真一郎 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (10334707)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高齢者 / 労働時間 / 引退 / 住宅資産 / 住宅価格 / 持ち家 |
Outline of Annual Research Achievements |
2000年代中葉以降、それまで下落し続けてきた住宅価格がようやく上向くようになった(不動研住宅価格指数)。しかし、現在までに世界金融危機、大規模自然災害、新型コロナウィルスの感染拡大など幾度も住宅価格の下落場面にも見舞われ、下落が続いた時代に比べて事前に住宅価格の変動を予想することが難しくなっている。経済学では、予期せぬ資産価格の変動は、家計のライフプランに影響を与え、労働供給に変化を与えると考えられている。実際に、金融危機による予想外の住宅価格の下落が、高齢者の引退時期を遅らせたという研究が海外で次々に発表されはじめている(Disney et al.、2015;Farnham & Sevak、2016;Zhao、2018)。 日本では、住宅や土地の流動性の低さや高齢者の予備的動機や遺産動機を反映して、高齢者の住宅資産の取り崩しが見られないといわれる(村田、2015)。この場合、海外の結果とは異なり、予期せぬ住宅価格の下落は高齢者の労働時間に影響を与えないかもしれない。そこで、2006年から2017年(12回分)の『日本家計パネル調査』から高齢者(60歳以上)の個票データを抜き出し、所有している住宅価格の予想外の下落が、高齢者の労働時間に影響を与えたか否かを実証的に分析した。その結果、正規で働く男性と非正規で働く女性については統計的に有意に労働時間を増やす傾向にあることを確認できた。このことは、日本でも働く高齢者は住宅価格の変動を意識して生活を営んでいることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は所有している住宅価格の予期せぬ変動が高齢者の労働供給に与える影響を分析した。働いている高齢者に限ると、サンプルの約7割の男性が正規雇用で,約8割の女性が非正規雇用で働いており、このサンプルの労働時間は予期せぬ住宅価格の変動に有意に影響を受けていることが確認できた。しかし、非正規雇用の高齢男性や正規雇用の高齢女性については、有意に影響が見られず、この結果、サンプル全体では高齢男性の労働時間も高齢女性の労働時間も住宅価格の変動に影響を受けない結果となった。この理由について、現状では十分分析できていない。また、推計結果の頑健性を確認するために、労働時間に代えて、労働日数や失業ダミー(失業している場合は1,していない場合は0をとる変数)を住宅価格に回帰したが、整合的な結果を得られていない。 このため、本年度は論文の第1稿の完成が遅れ、学会発表ができなかった。2019年度末には本研究と関連する英国(ブリストル大学)との共同研究で、研究成果の一部を報告することを予定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大で報告会が中止になった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2019年度に取り組んだテーマについて、サンプル・セレクションや変数の組み合わせを変えるなどして、推計の改良、頑健性の確認に再度取り組む予定である。その後、新型コロナウィルスの影響で難しい一面もあるが、セミナーや学会を通じて分析結果を発表し、論文を改訂していく。残念ながら、2020年6月から7月にかけて参加を予定していた国際学会の中止がすでに発表されている。 次に、新たなテーマとして、高齢者が住宅資産を遺産として残す場合に、相続予定の子から介護支援など非金銭的な援助を引き出せるかどうかを分析していく。
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Causes of Carryover |
理由) 推計結果から頑健な結果を得られなかったため、学会発表、論文作成ができなかったため。 (使用計画) 統計ソフトを使用する際,現在利用しているパソコンではスペックが不十分なため、新しいパソコンを購入する(デスクトップ・パソコンとノート・パソコンを1台ずつ予定)。推計を改良した後は、積極的にセミナーや学会発表を行い、論文の完成を目指す。また、類似した研究を行う国内の研究者をセミナーに招き、意見交換する。完成前に英文校閲機関を利用する予定である。
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