2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K01603
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
岩田 真一郎 神奈川大学, 経済学部, 教授 (10334707)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高齢者 / 住宅資産 / 住宅価格 / 労働供給 / 労働時間 / 就業 / 相続 / 親子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は高齢者が所有する住宅資産を活用して、どのように生活維持を試みようとしているのかを『日本家計パネル調査』の個票データを用いて実証的に分析することである。昨年度に引き続き本年度は次の二つの研究テーマに取り組んだ。 第一に、「親から子への住宅資産の相続可能性は子から親への金銭的支援を増やす」という仮説の検証である。この仮説の検証は、交絡因子が存在するため簡単ではない。例えば、良好な関係を築く親子は、住宅の相続確率が高くなり、金銭的支援も多くなる傾向にある。交絡因子の存在を考慮せずに、相続確率と金銭的支援の正の関係を見いだしても、それは単なる見せかけの相関の可能性があり、因果関係を明らかにしたとは言えない。この問題に対処するために、これまで操作変数法を試みてきたが、相続可能性と関係の強い適切な操作変数の発見に至らなかった。そこで、本年度は、操作変数法の代わりに、パネル調査の利点を活かした固定効果モデルを試みた。仮に親子間の関係が時間を通じて一定であれば、固定効果モデルによって、上記の交絡因子をコントロールできるかもしれない。検証の結果、仮説を支持する結果が出たため、現在論文を改訂中である。 第二に、「住宅資産が予想外に積み上がると、高齢者は労働時間を減らす」という仮説の検証である。住宅価格の予想外の上昇を通じて住宅資産が積み上がると、高齢者は上級財である余暇時間を増やすため、労働時間を減らすかもしれない。本研究では、持ち家所有者の住宅価格を過去の住宅価格や築年数などに回帰し、説明できない部分を予想できない住宅価格と定義し、労働時間をこの予想できない住宅価格に回帰した。その結果、60歳以上の非正規で働く女性と65歳以上の正規で働く男性は、住宅価格の予想外の上昇によって、有意に労働時間を減らすことを確認した。一方、労働参加率や労働日数については有意な影響は確認できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第一の研究については、様々な推計(2段階推定法、操作変数法、プロペンシティ・スコア・マッチング)を試みて、概ね仮説を支持する結果が出たため、本年度で終了する予定であった。しかし、交絡因子に対して十分な対処ができていないというコメントを受けたため、別の推計方法(固定効果モデル)を試みることになった。ただし、この手法においても、仮説を支持する結果が得られたため、現在この結果も取り込み論文を改訂中である。 第二の研究については、概ね順調に研究が進んでいる。昨年度に引き続き推計作業を中心に行い、その後、論文としてまとめ、国内外のワークショップで発表した。国外のワークショップは泉原美佐ブリストル大学教授が主催され、発表の概要はブリストル大学のブログに掲載されている(https://policystudies.blogs.bristol.ac.uk/2021/10/15/wealth-and-retirement-uk-and-japan/)。ワークショップのコメントを活かし、現在は再推計を試みている。来年度は国内外の学会で発表し、最終的に論文としてまとめ、査読付き国際学術誌への投稿を考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一の研究テーマについては、固定効果モデルの結果を論文に加える。また、投稿先を考慮して論文のイントロダクションを書き直す予定である。研究論文として書き終えた後は、再度査読付き国際学術誌に投稿したいと考えている。 第二の研究テーマについては、国内外の学会で発表し、研究論文としてまとめ、査読付き国際学術誌に投稿したいと考えている。
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Causes of Carryover |
感染症のため国内外の旅費の使用がなく、昨年度購入を予定していたノートパソコンを購入しなかったため。 (使用計画) ノート・パソコンを新規に購入し、かつ統計ソフトを更新し、効率的に推計作業を進める。論文作成後は、積極的にワークショップや学会発表を行い、論文の完成を目指す。完成前に英文校閲機関を利用する予定である。論文が掲載され、かつ可能な場合は、オープン・アクセスの権利を取得する。
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