2019 Fiscal Year Research-status Report
Geography and firm boundary
Project/Area Number |
19K01611
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大野 由香子 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (50615094)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 買い手独占 / 地域労働市場 / 賃金 |
Outline of Annual Research Achievements |
自動車サプライヤネットワークデータを用いた「企業境界」に関する研究については、2019年度半ばから予定していたデータを整理し始めることができ、現在までに3分の1を完了させることができた。
また、労働面からの「企業境界」研究に関しては、まず、アメリカのNational Sample Survey of Registered Nursesを用いて分析を行い、東京大学都市経済セミナーとIDEJetroアジア経済研究所で発表し、アドバイスやコメントをもらうことができた。分析結果として、まず正規看護師の多くは、居住地にかなり近い職場で働き、地域労働市場に縛られていることを示唆する観察事実を得た。また彼らの賃金は、病院など職場が少ない地域で低く、買い手独占の影響を受けている可能性も観察された。アメリカの看護師ライセンスは州ごとに授与されるため、労働市場が州境界で分断される可能性がある。実際、州境界の近く(30mile以下)に居住する看護師について、賃金が低いことが観察され、州ライセンスにより労働市場が分断されることで、病院など雇用側の交渉力が高くなる可能性が示唆された。最近は、州によって共通のライセンスを定めており、隣接する両州が共通ライセンスを定める場合、州境界は労働市場を分断しないと考えられる。州境界の賃金に対する負の影響は、そうした場合は、小さいことが示された。
次に、日本の就業構造基本調査データを用いた個人の職に対する賃金以外の非金銭的な嗜好を考慮にいれた研究に関しては、各市区町村への通勤時間を政府のNITASデータを用いて、より詳しく計算した。日本のほぼ全ての市区町村組み合わせについて、公共交通機関を用いた場合と、自動車を用いた場合で計算したので、その計算に、かなり時間がかかったが、データを一通り完成させることができたので、それを用いて分析を進めていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年秋まではサバティカルであったこともあり、研究に専念できた。おおむね順調に進展していたが、2019年度の後半では、問題も生じた。
特に、労働側面からの「企業境界」研究に関しては、まず、NITASシステムでの2地点間の所要時間の計算などは、バッチ処理にシステム上の工夫も必要で、予想以上に時間を費やさねばならなかった。また、2019年度の後半に予定していた病院データの購入に関しては、新型コロナウイルスの影響で、アメリカの販売会社(AHA)の担当者と連絡が取れない状況にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
A.地理的市場と企業の外注・内製の意思決定を通じた「企業境界」に関する研究 本研究では焦点を当てる産業の一つを自動車産業として進めているが、2020年度においては、これまでの年度のマークラインズ自動車産業ポータルからのデータの整理を一通り終えたい。その後、部品特性も考慮して、車メーカーとサプライヤの地理的関係や、サプライヤ間の地理的関係を整理し、企業の外注・内製を通じた「企業境界」が、地理的市場の形成といかに関連するかを分析する。企業が新製品を生産する際、生産過程の調整や生産ノウハウ拡散抑止の為、サプライヤをモニターする必要性が高まると考えられるが、その場合、内製・外注の意思決定にサプライヤの地理的近接性はどう関係するかの計量分析も、2021年度には行いたい。新型コロナウイルスにより共著者との共同作業が遅れる見込みであるが、以前予定していた共同作業の時間を、過去のアメリカクレジットユニオンのIT外注の分析結果の整理に充て、現在の内生・外生の企業意思決定の理解の一助としたい。
B.地理的市場と企業の正規・非正規の労働投入意思決定による「企業境界」に関する研究 個人の地理的移動コストの地域(労働)市場形成における役割を整理する上で、日本女性の賃金を分析し、更に企業の正規・非正規の賃金や雇用の決定を分析する。NITASシステムで計算した市区町村間所要時間を用いて、現在までの分析を2020年度中に改定したい。また、アメリカのNational Sample Survey of Registered Nurses(NSSRN)を用いた正規看護師と非正規看護師の賃金に関する分析に関しては、2020年度中にワーキングペーパーを完成させたい。
|
Causes of Carryover |
2019年度末(2020年3月)に計画していたシカゴでの共著者との打ち合わせが7月に延期となった。しかしながら、新型コロナウイルスの影響で、7月の渡航も難しいと考えられ、更に延期せざるを得ないかもしれない状況にあるが、状況が改善次第、渡航の予定を考えたい。
また、アメリカの病院データの購入に関しても、2019年度末までに終える予定であったが、こちらも、新型コロナウイルスの影響で、販売元との連絡が途絶えている。夏までに購入できるよう努めたい。
|