2019 Fiscal Year Research-status Report
中国における農業経営の大規模化とその効率性に関する実証研究
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19K01642
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
寳劔 久俊 関西学院大学, 国際学部, 教授 (90450527)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 農業経営 / 中国 / 農業構造調整 / 効率性 / 農地 |
Outline of Annual Research Achievements |
農地権利保護の強化と非農業就業の増大、労賃上昇による農業機械化の普及を背景に、中国では農地流動化が近年急速に進展するとともに、新しい農業経営体も数多く出現している。本研究課題の目的は、この新しい農業経営体に注目し、「経営規模」(零細、中規模、大規模の経営体)、「経営方式」(農業協同組合への参加状況、政府認定の大規模専業農家の有無、農業企業の有無など)という2つの分析軸を設定し、農業経営の効率性に関する比較研究を行うことにある。 この目的を達成するため、本年度(2019年度)は中国の農業経営に関する広範な資料収集を行うとともに、中国での農村調査を通じて現地動向の理解に努めてきた。2019年6月には山西省太谷県を訪問し、大規模な農業経営を展開するアグリビジネス(ワイナリー)に関する実態調査を行った。このアグリビジネスは、研究代表者が2002年から継続的な調査を実施する農業企業で、企業による栽培・販売管理の方法とその変容、地元政府や栽培農家との契約栽培の仕組みと直面する課題などについて詳細に調査した。さらに2019年8月には、江蘇省南京市郊外と浙江省杭州市郊外の茶園経営(観光農園も含む)に関する実態調査を行った。前者についてはアグリビジネスと地元政府が連携した大規模な農業経営であり、後者については地元農民主導による零細経営の連合体であるが、ともに地域全体としての強い結束力のもと、地域ブランドの構築を実現した事例であり、農業経営における新たな取り組みを理解するうえで大いに有用なものであった。 さらにメールや現地調査を通じて、中国の現地協力者との間で緊密な意見交換を行い、来年度実施予定の調査票調査の対象地域や実施方法、調査の実施時期や委託契約の内容、調査結果の集計方法などについて詳細な協議を進めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の予定通り、中国の農業経営に関する公表された資料と先行研究の整理、研究代表者が過去に実施した農業経営に関するアンケート調査(2018年、四川省)の再推計に取り組み、実証分析のための作業仮説をより明確にするとともに、現地協力者との間で、調査設計や調査票の質問項目に関する詳細な協議を行った。 さらにアンケート調査地域の選定や現地協力者との共通理解の構築と、中国における農業経営の実態把握のため、中国で2度にわたる現地調査を実施した。中国での現地調査では、地元政府の担当者やアグリビジネスの経営者、現場の農業監督者へのヒアリング調査を行い、農業経営方式の変容や販売・生産管理のあり方、直面する課題などに関する情報収集に努めてきた。この現地調査を通じて獲得した知見に基づき、現地協力者との間で調査設計の枠組みや調査項目の構成に関する協議を行い、大筋での合意に達した。 以上の理由から、(2)概ね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2019年度)の収集資料と中国側との協議結果に基づき、多様な農業経営主体による農業経営に関する質問票調査を実施する。質問票調査については、江西省を対象に、経営規模や経営形態の異なる農業経営体(大規模専業農家、中小規模の専業・兼業農家、農業協同組合、農業企業など)を選出する形で実施する。 農業経営主体の抽出では、農業経営主体数が多くかつ農業生産額が上位にある地域に焦点を当て、この地域から3つの県を選択し、地元政府から提供される母集団情報に基づき、各県から約100の農業経営体を選出する。その際、経営規模に応じて大・中・小(経営規模が1ha未満の零細経営体、1~10haの中規模経営体、10ha以上の大規模経営体)の3つの階層に層化し、各階層から無作為抽出で約100以上の経営体を選出する形で、合計で300以上の経営体に関する質問票調査の実施を目指す。調査対象地域ではコメ・小麦の二毛作が普及していることから、コメ・小麦の栽培を主とする経営体を調査対象とする。なお、調査実施にあたっては、経営規模や経営主体に応じて支給される各種補助金(認定農家への支援金、経営体へ固定支払いなど)についても詳細に調査する。さらに、調査委託先から提供される個票データをもとに、詳細なデータ・クリーニング作業と集計作業を実施する。個票データに不整合が見つかったり、集計値が実態と大きく乖離している場合には、委託先に調査原票の確認作業や調査地への問い合わせを依頼し、より信頼性の高いデータベースを構築する。 しかし、新型コロナウイルス拡大の影響を受け、中国の行政機関や研究機関の活動は復旧途上にあるため、現状では現地政府や地元研究機関との連絡・調整が困難になっている。そのため今後の情勢に注視しつつ、現地協力者と協議を進めながら、質問票調査の実施時期について慎重に検討していく。
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Research Products
(2 results)