2020 Fiscal Year Research-status Report
Empirical Analysis on the Middle-income Trap and Deindustrialization in Asia
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19K01663
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
大坂 仁 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アジア経済 / 脱工業化 / 産業構造変化 / 中所得国の罠 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題について、昨年度に引き続き今年度もアジアの脱工業化と産業構造変化、および中所得国の罠に関する文献・先行研究レビューを行った。これらの先行研究をもとに今後検証すべきあらたな分析項目を得ることになった。Arezki, Fan and Ha (2019)は中東および北アフリカ地域における中所得国の罠に関して、そもそもこれらの地域では一般的(または汎用的)な技術の導入が遅れており、また所得水準も東アジアや太平洋地域に比べて相対的に低いレベルで低下し始めることを実証分析で示している。この点について、市場の在り方や政府の開発政策が影響を与えていることも含意として取り上げており、Arezki, Fan and Ha(2019)の指摘は更なる実証分析によって検証していくべき重要な課題の一つといえる。 しかしながら、今年度は新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、当初予定していた海外出張を実施することができず、Arezki, Fan and Ha(2019)の指摘する問題を検証すべき資料やデータ収集は次年度の課題として持ち越されることになった。 ところで、昨年度までの分析結果として、アジアではGDPおよび労働者の比率で未熟な脱工業化がみられること、また脱工業化の転換点は東アジアに比べて南アジアで低くなっており、所得水準の低いアジア途上国でより未熟な脱工業化がみられる結果が示されている。 (参考文献) Arezki, Rabah, Rachael Yuting Fan, and Ha Nguyen (2019), “Technology adoption and the Middle-Income Trap: Lessons from the Middle East and East Asia”, World Bank Policy Research Working Paper 8870, Washington, D.C.: World Bank.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は新型コロナウイルス感染症による影響で海外出張が実施できず、関連資料やデータの収集に大きな制約を受けた。このように関連資料やデータの収集が予定通り実施できなかったため、アジアの脱工業化と産業構造変化、および生産性格差の分析において精緻で整合的な実証分析を行うことができず研究計画に遅れが生じている。 一方、昨年度から継続している先行研究レビューは予定通り進んでおり、本研究課題で取組む分析内容を絞り込みつつある。具体的に、Rodrik(2015)が提唱する途上国の未熟な脱工業化の問題、またGill and Kharas (2015)が指摘する中所得国が所得水準を上げることができずに低迷している問題は極めて重要であるものの、理論的および実証的な両面で解明が進んでいるとは言い難い。このように、アジアにおける脱工業化の産業構造変化と中所得国の罠の関連性は重要な分析課題であるものの、本研究では昨年度までの予備的なデータ分析に留まっているため、これまでの進捗状況を予定よりやや遅れていると判断している。 (参考文献) Gill, Indermit S., and Homi Kharas (2015), “The middle-income trap turns ten”, World Bank Policy Research Working Paper 7403, Washington, D.C.: World Bank. Rodrik, Dani (2015), “Premature deindustrialization”, School of Social Science Economics Working Papers, Paper Number 107.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は今年度に引き続き、アジアの脱工業化と産業構造変化、および中所得国の罠に関する文献・先行研究レビューを行いながら、理論的かつ実証的な分析を試みる。先述したように、今年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により海外出張が行えず、関連資料やデータの収集が計画通り実施できなかったが、次年度は海外出張の影響をあまり受けない理論的な分析に焦点をあてて分析を進めていく。具体的に、経済成長に関する収束論や内生的経済成長論の最新の研究動向を検証しつつ、本研究課題に応用できる理論モデルの検討を行う。これらの理論モデルをベースにアジア途上国の経済発展および経済成長の将来的な展望を考察していく。 また、今後も新型コロナウイルス感染症の影響により海外出張の実施が不透明なため、可能な限りインターネットを活用して関連データの収集に努めていく。具体的に、アジアの産業構造変化と生産性格差の実証分析にマクロ経済データの入手は不可欠であり、世界銀行、国際通貨基金や国際連合のデータベースにアクセスして、長期にわたる時系列データやパネルデータの収集を行っていく。加えて、最新の時系列データ分析やパネルデータ分析の導入についても先行研究レビューを行いながら検討していく。
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Causes of Carryover |
今年度も昨年度末と同様に、新型コロナウイルス感染症の影響により予定していたアジア各国や国際機関への海外出張・調査を実施できなかったため、その分の予算を次年度に繰り越すことになった。現時点において、次年度も新型コロナウイルス感染症の影響が継続すると予想されるため、海外出張による資料・データ収集や情報交換の具体的なスケジュールの設定が難しい状況にある。このため、次年度もオンライン会議の活用を継続して海外研究者や国際機関の担当者との情報交換を実施していく予定である。オンライン会議や打合せを推進するため、更なるパソコン機器の整備を計画している。ところで、新型コロナウイルスの感染拡大が収束し海外出張が可能となった際には、あらためて当初予定していた国際学会などへの参加も検討する。
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