2021 Fiscal Year Research-status Report
Empirical Analysis on the Middle-income Trap and Deindustrialization in Asia
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19K01663
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
大坂 仁 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アジア経済 / 脱工業化 / 産業構造変化 / 中所得国の罠 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題について、昨年度に引き続き中所得国の罠に関する先行研究レビューを行い、また国際データを用いて記述的なデータ分析を試みた。 Fasih、Patrinos and Shafiq (2020)は中所得国としてインドネシア、パキスタン、南アフリカの3カ国に着目し、大学教育の経済効果がコロナ禍でも示されていることを計量分析によって明らかにしている。特に、大学の学位を有する労働者の失業率が、学位を持っていない労働者に比べて低いことを示し、更にこの傾向が低所得国や中所得国でより強くみられると記している。彼らはその理由として、コロナ禍におけるリモートワークなどに必要な技能を挙げており、教育水準による技能レベルの違いが所得格差に影響する可能性を示している。 なお、世界銀行のデータを用いて各国の経済成長率(一人あたりGDP成長率)を比較してみたところ、1961年以降は上位中所得国の経済成長率が低位中所得国より高く、2020年のコロナ禍ではマイナス成長であるものの同様な結果が得られている。一般的に低位中所得国より上位中所得国の教育水準が高いことから、上述の分析を類推できる結果となっている。なお、サンプル期間における中所得国の経済成長率が高所得国より高かったことから、中所得国の罠の存在を支持しない結果も得られている。 (参考文献) Fasih, Tazeen, Harry A. Patrinos, and M. Najeeb Shafiq (2020), "Economic crises and returns to university education in middle-income countries: stylized facts and COVID-19 projections", World Bank Policy Research Working Paper 9472.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度も昨年度に引き続き、コロナ禍による影響で予定していた国内外の出張が実施できず、関連資料やデータの収集などに制約を受けた。このように関連資料やデータの収集を予定通りに行うことができなかったため、特にアジアの脱工業化や生産性格差における実証分析に遅れが生じている。 なお、これまでに行った記述データ分析では、Bulman、Eden、and Nguyen (2017)などの先行研究と同様に、中所得国の罠の存在を支持する結果は得られていない。世界銀行の各国の所得データをみると、全般的に中所得国の経済成長率は高所得国よりも高く、これは通時的に高所得国へのキャッチアップ効果を示唆するものである。アジアにおいてもこれを裏付けるデータが得られており、東アジアと南アジアの両地域で高所得国を上回る経済成長率が示されている。 ところで、研究課題の重要な分析項目であるアジアの脱工業化と生産性格差への取り組みは遅れており、今後は精力的にこれらの実証分析を行っていく必要がある。現時点で、新型コロナウイルス感染症の感染状況は落ち着きつつあるものの、仮に今後もコロナ禍の影響によって国内外の出張に支障が出る場合は、インターネットによる情報収集などの代替措置を検討していく予定である。いずれにしても、進捗状況は予定より遅れていると判断している。 (参考文献) Bulman, David, Maya Eden, and Ha Nguyen (2017), "Transitioning from low-income growth to high-income growth: is there a middle-income trap?", Journal of the Asia Pacific Economy, vol.22, no.1, pp.5-28.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に最初に手掛ける分析項目として、重要でありながらコロナ禍による影響で分析が遅れているアジアの脱工業化と生産性格差の問題を取り上げていく。新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着けば、当初の研究計画に従って資料およびデータ収集のため国内外の出張を行う予定である。具体的に、アジアの脱工業化と生産性格差の実証分析に必要なマクロ経済データを継続して収集し、国内外の研究者と研究内容について情報交換を行っていく。マクロ経済データに関しては、世界銀行、国際通貨基金や国際連合のデータベースを利用して、長期にわたる時系列データやパネルデータの収集を行う。加えて、最新の時系列データ分析やパネルデータ分析の分析手法について、先行研究を参考に導入を検討する。 また、今年度に引き続き、アジアの脱工業化と産業構造変化、および中所得国の罠に関する文献など先行研究レビューを行いながら、最新の研究動向を把握していく。具体的に、経済成長の収束論や内生的経済成長論の先行研究を検証しつつ、研究課題の分析に応用できる理論モデルを検討する。なお、これらの研究における分析結果を整合的にまとめ、今後のアジア途上国の持続的な経済発展および経済成長へ向けた考察と将来的な展望を行う。
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Causes of Carryover |
今年度は昨年度に引き続き、コロナ禍の影響によって国内外の出張に支障が生じたため、支出しなかった出張分の予算を次年度に繰り越すことになった。現時点で、新型コロナウイルス感染症の感染状況は落ち着きつつある。今後、更に状況が改善すれば、当初予定していた国内外の出張を行い、国際機関などにおいて資料やデータを収集し、また国内外の研究者と情報交換などを行う予定である。なお、あらためて海外出張が可能となった際には、当初予定していた国際学会などへの参加も検討していく。 一方、コロナ禍の影響によって引き続き国内外の出張が困難である場合には、代替措置としてインターネットなどを利用して資料やデータを収集するなど、研究を遂行する上で必要な対応策を講じていく予定である。
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