2023 Fiscal Year Research-status Report
Empirical Analysis on the Middle-income Trap and Deindustrialization in Asia
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19K01663
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
大坂 仁 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アジア経済 / 脱工業化 / 産業構造変化 / 中所得国の罠 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き文献・先行研究レビューを行い、実証分析においても昨年度の回帰分析に追加的な計量分析を行った。まず、先行研究においてコロナ禍(COVID-19)の感染状況が改善し、利用できるデータも少しずつ入手が可能となりつつある状況で、Viollaz, Duque, Diaz-Bonilla, Newhouse and Weber (2023)などコロナ禍が途上国経済に及ぼす影響に着目する分析もみられるようになってきた。 次に、実証分析において本年度も世界銀行のデータを用いて回帰分析を行った。昨年度は1人あたり所得にみられる経済成長と工業化を示すデータに逆U字の関係がみられることを示したが、今年度は推定された逆U字における転換点でデータを二分し、それぞれのサンプルで回帰を行うことで線形での関連性を分析した。また、可能な範囲で階差変数における回帰分析も行っている。結果として、アジア中所得国の経済成長に工業化は寄与し、また更なる経済成長において脱工業化の産業構造変化がみられることが昨年度と同様に示された。ただし、それぞれの説明変数において重要性は異なっている。水準値のデータでも階差変数においても、工業化の要因として人口の増加(プラス効果)を挙げることはできるが、脱工業化において人口の統計的有意性は示されなかった。一方、工業化および脱工業化の要因(いずれもプラス効果)として投資や人的資本の重要性を挙げることができる。特に、人的資本のパラメータ推定値は工業化よりも脱工業化で大きいことが示された。これらの結果は、昨年度のデータ分析で得られたように工業化には労働投入、またサービス業を中心とする更なる産業構造変化に投資や人的資本の拡大が重要であることを示すものである。なお、これらの産業構造変化におけるデータ分析の結果は、産業別にみる労働者比率よりもGDP比率で強く示唆されるものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度もコロナ禍によって研究活動に影響を受けた。本年度は昨年度と異なり、夏期に海外へ出張することができたが、予防的に出張回数を減らすなどしたため資料集収集や意見交換などの活動で制約を受けることになった。 なお、これまでの分析で示したように、中所得国全体としては1人あたりGDPにみられる成長率が高所得国よりも高い傾向にあり、中所得国の罠の存在を支持しない結果となっている。ところで、最近の研究でコロナ禍による途上国経済への影響においても検証が行われるようになってきており、特にViollaz, Duque, Diaz-Bonilla, Newhouse and Weber (2023)では、コロナ禍で多くの途上国で失業の増大や所得の減少が推測される結果が示されている。このように、コロナ禍によって本研究に遅れが生じているものの、同時に先行研究によって新たな課題も示されるようになってきた。 次年度は研究課題の最後の年度となるが、コロナ禍によって延期していた幾つかの出張を予定通り実施することで、関連資料やデータの追加的な収集などを行っていく予定である。いずれにしても、全体として当初の予定より研究の進捗状況はやや遅れていると判断している。 (参考文献) Viollaz, Mariana, Daniel Duque, Carolina Diaz-Bonilla, David Newhouse, and Michael Weber (2023), “From middle class to poverty: The unequal impacts of the COVID-19 pandemic on developing countries”, World Bank Policy Research Working Paper 10304.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はコロナ禍の感染状況が著しく改善しているため、当初の研究計画に基づいて資料およびデータ収集のため国内外の出張を予定通り行う。特に今後の研究として、コロナ禍による影響で分析が遅れていたアジアの脱工業化と生産性格差の問題を取り上げていく。また、計量分析に必要なマクロ経済データに関して、世界銀行などの国際機関のデータベースを利用して時系列データやパネルデータの分析を行っていく。これらの分析に関しては最新の分析手法の情報を入手し、先行研究を参考に分析を試みる。 なお、昨年の先行研究の論文の中に、途上国経済へのコロナ禍の影響を分析したものがみられた。特に、Viollaz, Duque, Diaz-Bonilla, Newhouse and Weber (2023)は途上国の労働市場におけるコロナ禍の影響に関して興味深い分析を行っている。彼らの分析では、ブラジル、スリランカ、フィリピン、南アフリカ、トルコなどをサンプル国としてコロナ禍の雇用や所得への影響を推定したところ、サンプル国によって程度の差は異なるものの、いずれの国でも雇用の喪失や所得の減少が推測され、中には農業部門の増大がみられた国もあった。このように、コロナ禍における途上国のデータも少しずつ利用可能となっているため、本研究課題に関連して、コロナ禍の影響についても可能な範囲で分析を試みたい。 上記に加えて先行研究レビューも引き続き行い、本研究課題に関する最新の研究動向を把握していく。また、国内外の研究者とこれまでの研究内容について情報交換を行っていくなど、アジア途上国の今後の経済成長へ向けた考察と将来的な展望を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度の2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症は5類感染症に分類されることになったが、国内外の出張については、予防的な意味合いから出張回数を減らしたり出張期間を短めにするなど抑制的な対応を行った。このため、当初計画していた出張予算に未使用分が生じることになった。また、出張に関連して予定していた資料およびデータ収集などにも遅れを生じることになり、研究計画の一部が滞っている状況である。現在、コロナ禍による感染状況が落ち着いているため、次年度は当初の計画に基づいて国内外の出張を行う予定である。特に、国外への出張では資料やデータ収集、および研究者との意見交換などを通じて、本年度の研究計画で実施できなかった課題について分析を行っていく。また、国際学会などで研究報告も実施する予定である。加えて、コロナ禍によって提起されることになった新たな課題についても、本研究課題に関連する内容について可能な範囲内で分析を行っていきたいと考えている。
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