2019 Fiscal Year Research-status Report
Relation between Risk Attitude and Performance in Non-storable Commodity Market
Project/Area Number |
19K01682
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
石井 昌宏 上智大学, 経済学部, 教授 (90323881)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | リスクに対する態度 / Shipping Freight Rate / Stochastic Volatility |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「貯蔵不可能な財市場を対象とし, その市場参加者が有するリスクに対する態度の変化が市場成果(特に価格の確率分布)に与える影響を解明すること」である. 2019年度は海上運賃(shipping freight rate, Panamax)を中心的対象として研究を進めた. 具体的には, 2019 IAME conferenceにおいてそれまでの研究成果の一部を報告した. Kavussanos (1996)等に代表される海上賃の変動に関する研究の系譜と比較して, 価格変動の確率分布(特にstochastic volatility)の決定要因解明において, 市場参加者のリスクに対する態度の変化に注目していることと海運サービスへの需要が派生需要であることを考慮しているという2点が本研究の特徴である. また, 既存研究を調査した段階で, Parapostolou et al.(2014)等で注目されているmarket sentimentという要因を分析の中へ組み込むことが適切と考え, それを試行してきている. さらに, Li and Yang(2013)において開発されたprospect theoryを基礎とするモデルを利用して, diminishing sensitivityとloss aversionが海上運賃のvolatilityへ与える効果を分析することも試みている. 現時点において, 本研究はデータを分析している. 2019年度後半に行ったデータ分析において(未発表), 海上運賃のvolatilityがある金利の影響を強く受けていることが発見されている. また, 海上運賃のvolatilityは海上輸送の根源にある本源的需要と関連するある指標からもやや影響を受けていることも発見されている. ただし, これらについては今後より精査していく予定である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
統計モデルを出発点とする研究では, 市場参加者のリスクに対する態度の変化により生ずるその市場価格の確率分布(特にvolatility)の変化の構造の解明には至らない, と考えている. この目的を達成するためには統計モデルの基盤(根拠)としての理論モデルが必要である, と考えている. そこで, 2019年度の前半には、理論モデルの構築にかなりの時間を費やした. その理論モデルでは以下に説明することを念頭においていた. Kyle(1985)を参考にして, 不定期船市場における供給者と需要者の間の本源的需要に対する情報量の差を表現する. Hart and Kreps(1986)やStein(1987)等の枠組みを利用して, リスクに対する態度が異なることから市場において本質的に異なる行動を選択する市場参加者たちをモデルへ組み込む. ここには, Forward Freight Agreement(FFA)が市場参加者たちのリスクに対する態度を経由してspot市場へ与える影響をモデル化する目的もある. 投資家の行動の変化はmarket sentimentの表出という部分とリスクに対する態度の変化の表出という部分があると考えられる. これらを切り分けることを目的として, Barberis and Huang(2009)を参考にして投資家行動にnarrow framingを取り入れることを試行した. さらに, Li and Yang(2013)と同じ価値関数を用いて, 市場参加者のリスクに対する態度を表現しようとした. ここで, 上記の説明からも予想されるようにモデルの複雑性が高くなりすぎた. このためモデルの上で有用な結論を得ることが極めて困難になった. しかしこのモデル構築にかなりの時間を費やしてしまった. この点が研究に遅れが生じた主な理由である.
|
Strategy for Future Research Activity |
現在の進捗状況と大学を取り巻く状況を鑑みて, 2020年度は以下のように研究を推進していく予定である. (1) 2019年度後半から行なっているデータ分析を継続する. この分析範囲をFFAやコモディティ市場に限定することなく, 海上輸送サービスの需給関係, ある範囲の金融市場, 海上輸送の根源にある本源的需要と関連する指標等も分析対象とする. この分析においては, Tezuka et al. (2012)やBarberis and Huang(2009)を基礎として用いながら, 市場参加者のリスクに対する態度の変化を上述の観察可能な諸変数から捉えていく予定である. なお, この分析においては, Papapostoulou et al(2014), Papapostoulou et al(2016)においても算出されたShipping Sentiment indicesも利用することを考えている. さらに, これまで主に株式市場を対象として分析されてきた「先物市場がその対応する原資産価格に対する安定化あるいは不安定化効果」についても同時に議論することを計画している. (2) 海上運賃のvolatilityの変化を説明する要因として, diminishing sensitivityとloss aversionも加える予定である. これに関しては, Li and Yang(2013)において開発されたprospect theoryを基礎とする既存のモデルを利用する計画である. (3) 2019 IAME conferenceにおいて報告した内容に上述の分析を加えて, 論文にまとめて国際的学術雑誌へ投稿する予定である. この研究においては, 手塚広一郎先生(日本大学), 石坂元一先生(中央大学)との共同研究という形式で適宜進められる.
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下2点である. (1)予定していたノートPCの購入(予定金額16万円)を見送ったことが最も大きい理由である. 上記の研究に遅れが生じた理由にも記したように, 2019年度前半はモデル構築に多くの時間を費やした. このため, その間にはデータ整理・分析用のそれに適したPCが必要不可欠という状況にならなかった. また, 購入を考えていたノートPCの新モデルが2020年に発売予定という情報も購入を見送ったことの背景にある. このノートPCについては2020年度に大学事務が正常化した後に可能な限り早い段階で購入予定である. (2)外部へ依頼することを予定していたデータ整理を自分で行った. このため, それに該当する人件費・謝金を使用していない. 本年度, この分を論文投稿に関わる費用(英文校正費)として支出することを予定している.
|