2020 Fiscal Year Research-status Report
メディアの情報伝達バイアスと競争政策の在り方に関する研究
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19K01688
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
春日 教測 甲南大学, 経済学部, 教授 (50363461)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宍倉 学 長崎大学, 経済学部, 教授 (40444872)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 情報伝達 / バイアス / メディア企業 / 公共性 / 個人情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新旧メディアが提供する情報とバイアスとの関係について、現状把握とともに課題を明確にすることである。2年目として、民放局運営の見逃し視聴サービス「Tver」に着目し、視聴者の実際の利用の仕方や課題等について実データに基づき以下のような整理・指摘を行った。 民放の場合ネット番組視聴により広告収入が減少する恐れがあるため、受信料の裏付けがある公共放送とは異なり積極的運用を志向しにくい背景があった。しかし録画機器の普及と高機能化により、近年番組のweb提供に積極的な姿勢を見せるようになった。この点は、音楽産業におけるレコードやラジオ放送との、映画産業におけるテレビやDVDとの相克と共存関係に共通する面がある。実際に、時間制約緩和により潜在的視聴者層をテレビに惹きつけており、底上げ効果は達成できていることがデータ上で確認できた。また、公共性の高さから視聴者の信頼を得ているテレビ局に対してもネット上で個人情報を入力することに対する抵抗感は存在し、メールアドレス、職業、家族構成の順に抵抗感が高くなり、SNSアカウントは最も抵抗感が高かった。2019年8月にNHKが参加した後の数値はより高くなり、何らかの個人情報入力が必要な場合TVer利用をあきらめる人の割合はほぼ半数であった。 近年増加している動画配信企業は、提供元が伝統的メディアよりも視聴者からの信頼性を獲得できない可能性もある。その場合、個人情報利用やFake Newsに対する抑止力をどのように担保するかが大きな問題となる可能性についての考察も行った。 上記成果は書籍の1章として出版を行い、他大学主催のシンポジウムで講演も行った。そまた日韓台を含む東アジアにおけるメディア市場の状況と政府との関係の重要性を指摘した英文書籍、2000年代以降の情報通信・放送政策の課題と検討状況を整理した学会記念書籍への寄稿も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍によって、教育負担増のみならず以下のような課題が生じ対処する必要があった。 2年目のテーマとしては、当初「(II)映像 対 テキスト情報といった伝達内容による受け手に与える影響の相違」に取り組む予定であったが、本研究は実験を前提としており、被験者の情報の受け取り方を厳密に制御して行う必要が必要不可欠なものであるため、上記の研究内容に変更を行った。なお当初予定していた共同研究者とは、相談の結果実験に頼らないアンケート結果に基づく研究「個人のサステイナブル投資への選好 -モラルとリテラシーの効果-」に取り組み、学会発表する予定にしている。 投稿は研究期間の2年目だったこともあり、国内ではなく海外の比較的レベルの高い雑誌から投稿を始めたため審査期間も長く結果も厳しい状況が続いたが、査読コメントに沿ってかなり改善がなされたと感じられる。3年目の今年は、オンラインの国際会議も開催予定となっていることから、コメントを基に改訂し、妥当な雑誌を選定し最終的に成果物として掲載されることを目標とする。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年ほぼすべて中止となった国際学会だが、応募を検討している少なくとも3件の学会がオンラインを含めた開催を検討しており、こちらへの参加とコメントを基にした修正・投稿に取り組みたい。主要なテーマは、(1)政治スキャンダルに関する新聞記事を事例にとり、その報道の多寡から、メディア企業の行動が、空間競争モデルと政治バイアスモデルのどちらにより適合するかを実証的に検証する論文、(2)特に耐久消費財を製造・販売する企業が、オンライン広告と伝統的なマスメディア広告のどのような組み合わせで行動するかを理論的に考察する論文、の2本である。 さらに、(3)クラウドサービスのような耐久財を販売またはレンタルで提供することへのライセンスの影響を考察した論文の学術誌への投稿、(4)個人のサステイナブル投資への選好を分析した論文の学会発表、(5)ネット動画配信の参入による視聴環境変化が公共放送に与える影響の分析と学会発表、についても並行して行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により参加予定だった国際学会が相次いで中止となり、また投稿論文の執筆も遅れ気味となったことから予算に余裕が生まれたため、次年度に繰り越すこととなった。今期は最低でもオンライン開催が決定しており、また派生的な研究課題も設定できたことから、計画的に執行を行っていける予定である。
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