2019 Fiscal Year Research-status Report
複数属性を反映した社会厚生評価手法の開発とその応用に関する研究
Project/Area Number |
19K01694
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
中村 和之 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (60262490)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 所得分布 / 公共財 / 地域経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は以下の2点について研究を進めた. 第一に,生産要素の分布の変化が域内の経済活動や所得に与える影響を,産業連関表や県民経済計算,人口や就業統計などを利用して分析する手法を開発した.また,これを北陸3県(富山県,石川県,福井県)に当てはめ,人口減少や人口構成の高齢化に伴う地域経済の将来について,産業構造や県内純生産といった観点から試算を行った.モデルは標準的な産業連関モデルに,人口動態の変化が,教育,医療,介護といった社会サービスの需要に影響を与えることや公共サービスの人口当たり費用を変化させるといった需要側の要因と,労働供給量の減少がボトルネックとなって域内の生産活動が制限されるという供給側の要因を組み込んだものであり,地域間の生産要素賦存量の偏りが地域経済に与える影響を定量的に評価するものとなっている.このような枠組みによる分析は,人口減少下での地域経済の持続可能性を精査するうえで意義を持つものと考える. 第二に,世帯人員など家計の異質性も考慮して,公共財の自発的供給量と所得分布の関係を特徴づけることを試みた.従来も,所得格差の拡大は公共財の自発的供給の総量を増加させる方向に作用することは明らかにされてきたが,本研究では,所得分布を所得の集中度曲線(ローレンツ曲線とは逆に所得の降順に家計累積比と所得累積比を図示)やこれに家計の異質性を反映させるための修正を施した曲線における支配関係に注目することで,公共財の自発的供給量の大小関係を示した.分析結果は,二つの所得分布を比較したとき,増加凸順序が公共財供給量の大小関係を示すことを意味しており,公共財が存在しない場合では,増加凹順序が社会厚生の順序関係を示すとする分析との違いを際立たせるものとなっている.分析結果は,公共財が存在する場合の社会厚生と所得分布の関係を分析するために重要な含意を持つものと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,需要側の社会サービスを考慮した分析や公共財の自発的供給量と所得分布の関係を考えることで,所得や生産要素の分布のみならず,社会厚生に影響を与える他の要因も考慮した分析手法を開発することができ,本研究の主題である複数属性を考慮した支配基準の構築に向けて前進することができた. また,公共財の総供給量を特徴づけるような所得分布の分析では,得られた性質を図を用いて検証できることが示され,実務や応用分析への適用を意識したものとなっている.これは,本研究の当初の問題意識である「これまでに提案されてきた複数属性に基づく校正評価手法を実務レベルで使えるツールにする」ことに通ずる点である. これらのことを踏まえて,研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,本年度得られた研究成果の拡張と一般化を目指すとともに,複数属性を反映した厚生評価手法の統一的な理解に資する枠組みの構築を目指す. 第一に,本研究が当初より想定していた線形計画法を用いて複数の属性を考慮した厚生評価手法の構築を進める.第二に,世帯人員など家計の異質性を考慮して所得分布を評価する手法がいくつか提案されているが,これらを一般化ローレンツ曲線による比較という点から統一的に理解,評価できるような分析手法の開発に着手する.第三に,これらの分析手法を,地域経済の持続可能性や所得再分配政策の評価といった領域に応用できないかを検討する.
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Causes of Carryover |
当初の計画では,作成した研究論文原稿の英文校正を2編,予定していたが,日本語論文を先に完成させることとしたため,翌年度に支出することとした.また,当初の計画では2月と3月に学会,研究会にて研究成果を報告予定であったが,それらの開催が取りやめになったため,次年度使用とした. すでに1篇の原稿は完成しており,最終チェックの後,速やかに英文校正に回す予定である.
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