2020 Fiscal Year Research-status Report
複数属性を反映した社会厚生評価手法の開発とその応用に関する研究
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19K01694
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
中村 和之 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (60262490)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 所得分布 / 公共財 / 社会厚生指標 / ランキング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は以下の2点に取り組んだ. 第一に,複数属性を考慮した社会厚生指標に基づき,評価対象となる国や地域の取り得る最高順位と最低順位を求める手法を開発した.これによって,SDGsランキングやHDIランキングといった評価指標の頑健性の考察を試みた.たとえば,持続可能な開発ソリューション・ネットワークによるSDGsレポートは,17の目標毎のスコアを正規化の上,それらを集計した達成度ランキングを公表している.ただし,集計の性質上,順位は単純集計値(平均値)のみに依存し,目標間の達成度のばらつきは反映されない.しかしながら,各目標のスコアが対応する属性の厚生水準を表すとすれば,評価関数に凹性を仮定することが妥当である.一般化ローレンツ支配に基づく比較はこのような要請に応え得る手法であるが,支配関係の有無は基本的に一対ごとの比較に留まる.また,特定の関数形を想定する手法はその背後にある価値判断の妥当性に依存する.そこで本研究では,各目標の評価関数に非減少凹性だけを課したときに,当該国が取り得る最高の順位と最低の順位を求め,とり得る順位の範囲を求める手法を開発した.手法は,評価関数を区分線形の凹関数として定式化して,混合整数計画問題を解くものである.これをSDGsレポートで公表されている指標に適用した結果,順位上位国の中にも大きな順位の範囲を持つ国が観察され,順位だけを重視することには慎重であらねばならないとの含意を得ることができた. 第二に,家計の異質性を考慮して一般化ローレンツ曲線を用いて評価する手法をほぼ完成させることができた.端的に言えば,異質性を持つ家計からなる社会厚生を評価するために,家計の所得に異質性を考慮した仮想的な変更を加えた分布を構成して,その分布をもとに一般化ローレンツ曲線によって比較しようとするものでる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度より継続して取り組んだ公共財が存在する下での所得分配の評価に関する研究はひとまず区切りがつき,投稿等を通じて得られた指摘や示唆を受けて最終的に完成させる段階にある. また,厚生指標の順位づけに関する研究は,本研究の主たる目的である「これまでに提案されてきた複数属性に基づく厚生評価手法を実務レベルで使えるツールにする」ことに沿ったものである.とりわけ,社会的にも大きな影響力を持つ評価指標のランキングがもたらす情報をより豊かにすると言う意味で,本研究の目的に適ったものとなっている. さらに,家計の異質性を考慮した所得分布の比較を一般化ローレンツ曲線を用いて行うことも,よく知られたツールをベースとして,より複雑な状況を考慮した分析を行うと言う意味で,本研究の目的に適うものである. これらのことを踏まえて,研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において複数属性を反映した厚生評価手法の統一的な理解に資する枠組みは構築できたので,今後はその完成を目指す.特に,これまでの研究成果を包摂できるような一般的な枠組みを,具体的な応用事例を示した形でまとめることに取り組む.具体的には,複数属性に基づく支配基準の判定を線形計画問題として定式化するとともに,その双対問題から得られる情報の活用や,逐次的一般化ローレンツ支配基準への拡張,と言った点を取り上げる.応用事例としては,個人や地域の総合的な厚生水準の評価だけでなく,個別政策への適用可能性も検討する. また,既に完成している研究については速やかに論文の形式に整えた上で成果の公表を目指す.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大により,当初予定していた学会や研究集会への出席がすべて中止もしくはオンラインとなったため,旅費からオンライン用機材の購入に使途を切り替えた結果,予定額の差異が生じた. 2021年度については,英文校正や投稿料などが当初の見込み以上に発生することが見込まれるとともに,分析用ソフトウェアの更新等で次年度使用額を吸収する見込みである.
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