2019 Fiscal Year Research-status Report
A study on national health expenditures, intergenerational inequality, and individual health accounts
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19K01702
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 教授 (60399532)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国民医療費 / 世代間格差 / 医療貯蓄勘定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では公的医療制度に絞った世代間格差と個人貯蓄勘定化に関する分析を行う。我が国の社会保障給付費が増加の一途をたどっているのは周知の事実である。その抑制は我が国の重要な政策課題の一つであり、公的年金に関してはマクロ経済スライドなどある程度、抑制の仕組みも導入されつつある。一方、公的医療については、公的年金ほどの抑制策は導入されていない。本研究では医療費の抑制に一定の効果が期待できる医療の個人勘定について研究を行う。医療の個人勘定化は医療費にある一定程度、歯止めがかかり、それにともない社会保障制度のもたらす世代間格差の改善に寄与するであろう。一方で、医療の個人勘定化は個々人の保険料よりも医療費支出が上回る医療費超過の個人が多く出てしまうかもしれない。本研究では医療費抑制による世代間格差改善の程度を推計するとともに、一方でそれにともなう個々人の医療支出超過の確率の上昇についても実際のデータにもとづいた医療費の遷移確率から推計を行った。それらの推計をもとに、世代間格差の改善と個々人の医療支出超過の確率について政策的な含意について検討を行った。 これまでに得られている結果について簡単にまとめる。医療費の推移確率(医療費ゼロの場合を除く)に基づくシミュレーションでは、医療貯蓄勘定が黒字となる確率は52.3%となった。一方、医療費ゼロのケースを含むレシートデータに基づく医療費の推移確率を用いた場合、この確率は89.2%である。 さらに、80歳までの医療貯蓄口座のシミュレーションの場合、黒字になる確率は69.6%となった。また、これらの研究を詳細に分析した論文は学術誌Japan and the World Economyに掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、公的医療改革による世代間格差の改善と、それによる個々人の医療費超過確率への影響について定量的に明らかにすることにある。まず、公的医療制度がもたらす世代間格差については、世代間格差の分析で多く用いられる世代会計の手法を応用した。一方、個々人の医療貯蓄勘定を念頭に置いた公的医療改革については、実際のレセプトデータをもとに分析を行った。本研究では、著者が関わった、国立社会保障・人口問題研究(2004)の調査、千葉県の政府管掌健康保健(政管)レセプトデータをもとに分析を行った。本研究で用いたデータの調査の対象は1997年から2001年の間の千葉県のある地域の政管レセプトデータであるが、個人の医療費を追えるデータセットとなっている。そのデータセットをもとに、個人単位で医療費をパネル化することによって、個人の前の年にかかった医療費とその年にかかった医療費のクロス表が作成できる。その医療費の遷移確率を基に医療貯蓄勘定についての分析を行った。 世代間格差の分析では、リーマンショック以降の現存世代の生涯純負担は増加する一方で、将来世代の生涯純負担は低下し、その結果、世代間格差は改善する傾向となっている。また、さらなる世代間格差改善を目指す公的医療改革の分析では、公的医療の縮小とその受け皿としての医療貯蓄勘定について分析を行った。医療貯蓄勘定の分析では、医療貯蓄勘定が黒字である確率は50%から70%となった。それらの結果が得られており、現在までの進捗状況はおおむね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年目は、1年目で得られている結果がロバストかどうかに重点を置いて研究を深める。公的医療保険制度の世代間格差にあたえる影響については、世代会計の手法を用いているが、推計の前提となる経済成長率や利子率の値によって世代間格差の推移が変わるかどうかについてもチェックする必要がある。さらに、医療の技術進歩についての設定は医療費の伸びに重要なパラメータとなる。その率の設定いかんによって医療費の伸びがより増大することになるため、特に医療の技術進歩率につての設定は慎重に行う必要があるだろう。さらに、医療貯蓄勘定のシミュレーションの元となる、医療費の遷移確率を求めるデータについても一つのデータセットではなく複数のデータセットで検証する必要もあるだろう。本研究の2年目は、推計やシミュレーションの前提となるパラメータの値の妥当性、またはパラメータの値を変えた感度分析などを行い、1年目で得られている結果が妥当かどうかの検証を主に行う。
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Causes of Carryover |
当該年度の所要額と当該年度の実支出額の差は8,389円とわずかではあるが、違いが生じた。その違いについては、海外出張等の当初予定していた金額と実際の費用とが為替変動などによって差が生じたものである。次年度使用額については、翌年度のパソコンやデータ関係での物品費にあてる予定である。
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