2019 Fiscal Year Research-status Report
起業と再チャレンジを促す効率的法制度:担保制度、個人保証、差押禁止財産
Project/Area Number |
19K01707
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
座主 祥伸 関西大学, 経済学部, 准教授 (40403216)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コーポレート・ファイナンス / 担保 / 個人保証 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、起業や再起業のために融資契約に関連する担保制度や保証の制度がどうあるべきについて、経済学のアプローチで考察する。企業が融資を受ける際に、担保権の設定や経営者個人に対する保証を設定することは多い。本研究応募時に設定した主な問いは次の四つである。それぞれの問いと、それに関する現在までの考察について以下で述べる。 問い1:個人保証は起業を妨げているのか?問い2:再起業を促すために、個人保証や外部担保へどうような制限をすべきか 。問い3:日本の担保登録制度(動産・債権特例法)を前提とした場合、個人保証や外部担保はどのような形であるべきか?問い4:起業・再起業の促進のためには、外部担保・個人保証・内部担保制度はどのような関係・形態であるべきか? 問い1に関して、個人保証は、物的な担保(外部担保や内部担保)と同じく、事業へのファイナンスを促進することがあることが理論的に示すことができた。一方で、個人保証の利用は、物的担保と比べると、融資に対する返済額が高くなり、結果的に事業家の利得が相対的に小さくなることが分かった。このことは、経営者への個人保証は、起業のインセンティブを他の保証手段を比べて小さくしていることを意味している。従って、個人保証は、(それがないと比べ)起業を促すが、(他の保証手段と比べ)起業を抑えていると本分析からは言えよう。問い2に関して、上記の分析を基にすると、個人保証をなるべく保証手段として使わないことが起業につながる。代わりに内部担保を使い易い環境整備が重要であり、当事者達がまず内部担保を利用し、それでも保証として十分でない場合に外部担保や保証が用いられることが望ましい。問い3、4については、今後の検討課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資金の貸し手と借り手の間で情報の非対称性が存在するとき、融資契約は資金提供者の参加制約(PC)と借り手・事業者の誘因両立制約(ICC)を満たす必要がある。 個人保証と担保(特に外部担保)は、同じように扱われる場合が多かったが、その機能的な違いについて本研究では明確に考察した。担保制度は、担保を設定した債権者に対して法的に優先権を与える物権的効力をもつ制度であるが、保証は契約的効力のみもつ。この特徴をモデルに明示的に取り込むために、次のように設定した。担保権者にとっては、市場価値相当の外部担保の資産をデフォルトが生じた場合には得ることができる。保証の債権者は、デフォルト時に経営者個人の資産を限定的にしか回収することができない。最悪の場合、全く手にすることができない。以上の特徴を考慮すると、個人保証の対象となる個人資産について、ICCには影響を与えるが、PCには部分的にのみ影響を与える。担保については、経営者個人の不動産等の外部担保と、動産・債権等の企業資産の内部担保を区別している研究は少ない。動産の典型的な例としては、在庫がある。事業が継続する限り、在庫は入れ替わり立ち替わり変動する性質をもつ。
動産のように融資時点ではなくファイナンス後の将来生まれる浮動的な資産であってもデフォルト後に換金できれば債権者にとって価値がある。一方、事業者・債務者側にとっては、デフォルト後には担保権者含めて債権者に企業資産は差し押さえられるためデフォルト後の価値はないといえる。そのため、動産等の内部担保は、(法制度等の効率性に応じて)その資産価値が部分的に資金提供者のPCには影響を与えるが、事業家のICCには影響を及ぼさない。以上のように、資産の特徴によりICCやPCに与える影響を考慮し、分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
設定した問いに答えられていないものを中心に考えていく。個人保証と担保の関係について、現在までで次のことが分かった。同じ状況で個人保証のみ、外部担保のみ、内部担保のみで融資を受ける状況を考察すると、個人保証が事業家の利得を最も小さくする。すなわち、事業を行う・起業を行うインセンティブが最も小さくなる。このことから、まず内部担保を保証手段として当事者に利用させることが起業の観点から重要である。そのためには、内部担保を利用しやすい法制度や動産評価の技術的発展等の環境づくりが必要である。問い3に関連して、日本の物権法定主義の考え方と英米法の物権に関する考え方は、根本的な違いがあるように思われる(特に、グループでの担保化が原則可能か不可能かという点)が、そのような違いがこの文脈でどのような効果があるかについても考察していく。
経営者への個人保証の利用させることは、融資を容易にする一方、他の代替的保証手段と比べて起業のインセンティブを低下させるため、利用を何らかの方法で限定することには社会的便益がある可能性がある。今後は、個人保証の限定方法について、諸外国の制度を調べるとともに、モデル分析から検討していきたい。個人保証の対象財産の範囲の限定方法については、例えば、自宅不動産は対象から除く等が考えられる。自身の住宅に対して多くの人は市場価値以上に価値や愛着を感じているとすると、消費者余剰が存在する。そのため、自宅不動産を個人保証や外部担保の対象から法的に外すことは、起業のインセンティブを引き上げる効果があるかもしれない。
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Causes of Carryover |
英文校正費として、使用予定だった額を次年度に持ち越したため。
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Research Products
(1 results)