2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01709
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Research Institution | University of Marketing and Distribution Sciences |
Principal Investigator |
中島 孝子 流通科学大学, 経済学部, 教授 (80319897)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 周産期医療 / 2次医療圏 / 移動距離 / 1出生当たり移動の機会距離 / 集約化 |
Outline of Annual Research Achievements |
関西3府県(滋賀、京都、兵庫)の周産期医療提供体制の把握を目的として分娩施設の現状を調査し、集約化の可能性を検討した。 方法:(1)各県の分娩施設の住所と機能を調査する。調査はすべてインターネットを通じて得られた情報をもとづく。調査時点は2018年4~12月である。(2)市町村役場を妊婦の居住地の代表点とし、各代表点から分娩施設への移動距離を3種類計測する。(3)計測した移動距離の集計結果の比較および、出生数の規模を考慮して集計した移動距離の比較を行う。(4)2次医療圏を単位として集約化の可能性を検討する。 結果:第1に、関西3府県の総合周産期母子医療センター(総合センター)と地域周産期母子医療センター(地域センター)は滋賀県に4、京都府に19、兵庫県に12あり、県庁所在地などの人口や出生数の多い2次医療圏に多く立地する傾向にある。第2に、(1)2次医療圏での移動距離の平均および1出生当たり移動の機会距離は、分娩施設が高度化するにつれ長くなる。(2)出生割合は、最寄りの分娩施設と地域、総合センターについて、3府県とも分娩施設までの移動距離30~40kmまでに100%に達する。最寄りの総合センターについては、100%に達するまでの移動距離が延びるとともに、府県間に差が生じる。(3)出生割合と総合センターまでの移動距離の平均には負の相関関係がある。(4)関西3府県の86市町村について、13施設が最寄りの総合センターとなり、うち、滋賀県では滋賀医科大学医学部附属病院、京都府では京都第一赤十字病院、兵庫県では神戸大学医学部附属病院が各府県の最大の出生割合をカバーする施設である。第3に、分娩施設の集約化の可能性を検討した。1つのセンターの医師数が「目標値」に足りない場合でも、同じ2次医療圏内に複数以上のセンター、公的・大学病院がある場合、移動距離の延長を伴わない集約化が可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
出生数の減少などを背景に縮小を迫られる周産期医療について、供給と需要の両面から実現可能かつ安全・安心な医療提供体制の構築を目的として研究を実施してきた。 日本全域における周産期医療提供体制の実態調査の一環として、2019年度は、2次医療圏ごとの分娩施設を調査した。各種の分娩施設について、実際の医療内容、救急搬送の受け入れ可能性などを調べ、周産期医療提供体制全体における安全性確保において重要な高次医療を提供する施設(総合および地域周産期母子医療センターなど)の配置について考察した。2019年は関西3府県について報告した。引き続き、中国地方での調査を行う。 新たな周産期医療提供体制にあたって、産後すぐの育児支援、すなわち産後ケアが重要となってきている。実際、各自治体では、産後の家庭訪問を全新生児に対しておこなうようになった。しかし、そうした家庭訪問は原則1回1時間であり、継続的なものではない。自治体に依頼され家庭訪問に携わる助産師は継続性に欠ける家庭訪問に何らかの葛藤や倫理的ジレンマを持つのではないか、という問題意識のもと、インタビューによるデータ収集を開始した。まだインタビューの段階であるが、1回の家庭訪問は、助産師にとって気になる母子がいると回数やその後のケアが不足すると感じられることや、医療機関での産後の入院だけでは育児支援となりえないことを示唆している。 また、2020年度は、飛騨医療圏の周産期医療、および女性の健康の将来を見据えた新たなシステムの構築をめざすための準備をしている。これは住民のワークショップを通じておこなうもので、飛騨医療圏の市町村の方とともに実施する予定である。 助産師を対象とするインタビューおよび、飛騨医療圏におけるワークショップの実施については、令和2年度中に実施予定であったものが、令和3年度に繰り越された。
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Strategy for Future Research Activity |
日本全域における周産期医療提供体制の実態調査として、中国、四国、九州地方を対象に実施する予定である。調査と同時に、2次医療圏単位での高次医療を提供する施設の配置について、医師数を主な制約条件として考察する。予備的な調査を行った結果であるが、中国、四国、九州地方では医療資源が豊富で、病院数や1病院当たりの医師数も多い。分娩施設の集約化の考察にあたり、医療資源の豊富さは周産期医療における選択肢を増やすだろう。 近年、晩婚化、晩産化による家族のあり方の多様化、地域のつながりの希薄化により、妊産婦や母親の孤立感や負担感が高まって、産後の育児支援の必要性が高まっている。これらを背景に、産後の全戸家庭訪問における助産師の持つジレンマに関する分析をおこなう。引き続き家庭訪問に従事する助産師にインタビューを実施し、インタビューの内容を分析することで、倫理的ジレンマの抽出をおこなう。助産師の倫理的ジレンマを明らかにすることで、地域における家庭訪問支援の助産ケアの質の実態を把握し、ケアの質向上を図るための示唆を得ることが可能となるだろう。 出生数の減少は、山間部や高齢化率の高い地方などで先行して進んでいる。そのような地方では、現在でも少数の分娩施設しかない。派遣元の医師不足など、医師派遣が困難となる場合もある。飛騨医療圏には4つの分娩施設がある。今後さらに分娩数が減少すれば、現在の周産期医療提供体制は出生数に対して過剰となり、一部の分娩施設が分娩取扱いをやめたり、機能を縮小したりする可能性がある。しかし、飛騨医療圏では次に近い分娩施設まで、とくに高次の周産期医療を提供する分娩施設まで距離がある(80km以上)。岐阜県高山市を中心とする2市1村が主催する住民参加のワークショップを通じて、飛騨医療圏という山間地における新たな周産期医療のシステム構築を援助する。感染症対策としてWeb会議の手法をとる。
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Causes of Carryover |
下記のような理由により、次年度使用額が生じました:全戸家庭訪問を行っている助産師の倫理的ジレンマに関するインタビューに遅れが生じている。年度の終わり近くには、新型コロナウイルスの感染防止を理由として、被験者からの依頼でインタビューのキャンセルや延期が生じた。飛騨医療圏における周産期医療等に関する住民ワークショップについて、2019年度後半での開催が検討された。しかし、年度内の開催は困難であると判断され、今年度(2020年度)開催されることが決定し、参加者である住民への謝金等が不要となった。飛騨医療圏におけるワークショップ準備のために会議等が予定されていたが、感染症対策のためにすべてキャンセルされた。 今後は、感染症対策の動向をみながら、インタビューの被験者に対する謝金とデータ起こしへの支払い、ワークショップ参加者への謝金を行う予定です:新型コロナウイルスにかかわる緊急事態宣言の解除を待って、安全性に配慮しながら助産師に対するインタビューを再開する。これも感染症対策を念頭におきつつ、飛騨医療圏における住民ワークショップの開催に必要な支出をおこなう。出張旅費への支出については小さくなると考えられる。
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