2021 Fiscal Year Research-status Report
An Empirical Study on the Effects of Consumption Tax on Household Consumption Behaviors and on Disparity among Households
Project/Area Number |
19K01715
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
堀 雅博 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50284667)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 消費税 / 財政再建 / 恒常所得仮説 / 家計消費 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の財政の基幹財源として期待されている消費税について、家計のミクロデータ等を活用した詳細な分析を行い、消費税施策を確かな根拠に基づいて実施するための材料を提供することを目的としている。 具体的には、①複数の統計調査の個票を組み合わせて使用し、単一統計ベースの先行研究の限界を乗り越えた実証的な分析・検証を行うこと、②学術的理論仮説の検証にとどまらず、我が国の実際の政策運営の観点から特に重要な政策課題に焦点を当てた問題設定で分析を行うこと、更には、③経済学者と国民一般の間に存在する(消費税の必要性に係る)大きな認識の違いを埋め、我が国の喫緊の課題である財政再建を進める上での障害の除去につなげることを目指した。 研究期間を通じ、複数統計(「国勢調査」「全国消費実態調査」「家計調査」「家計消費状況調査」、さらに本研究で実施したアンケート調査)の個票データを補完的に組み合わせたデータベースを構築し、①我が国の所得格差の実態把握とその変遷の要因分析(特に税制が所得再分配に与える影響の分析)、②いわゆる「消費税の逆進性」を消費の恒常所得仮説の観点から再検証した分析、③国民一般とエコノミスト(経済学者)の間の消費税の必要性に関する認識の乖離の確認と、乖離の要因に関する分析、④日本財政の状況に対する理解が消費税の必要性に関する認識に影響を与えるか否かのランダム化比較実験による検証、等に取り組んだ。 本プロジェクトでは上記以外にも、国際パネルデータを用いた消費税率引き上げがマクロの消費に与える影響等の検証等にも取り組んでいるものの、研究期間の大半の活動を制約される形になったコロナ禍の影響もあり、進捗が遅れ、学術誌への掲載等の公表段階に至っていない。幸い2022年度までの基金の期間延長が認められていることから、22年度中にできるだけ多くの成果が公表できるよう引き続き努力したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「研究実績の概要」にも述べたように、本研究は複数の統計調査を複合した大規模データベースの構築を前提として計画されていたが、その初期段階でコロナ禍の障害に直面し、個票データへのアクセスが利かない状態が続いたことは想定外だった。 結果として、データベース構築作業が大きく遅れたため、データ分析の開始が遅くなり、分析作業が一部にせよ形を成すようになったのはプロジェクト期間の半分を過ぎた時点になってしまった。 現在、研究テーマ①については、既に論文執筆を終え、学術誌に投稿中ではあるものの、いまだ掲載が認められる段階には至っていない。②については、基礎分析作業を終え、恒常所得仮説の観点から「消費税の逆進性」はさほど深刻ではない、という帰結、③についても、国民一般と経済学者の認識格差を浮き彫りにし、国民の中ではどのような属性の個人が経済学者の見方を支持しているかまでは明らかにできたが、いずれの内容も未だインフォーマルな研究会での報告に止まっており、公表論文の執筆段階には至っていない。④については、本科研費を活用して独自アンケート調査を実施する段階までは到達したが、まだ調査結果を粗々に確認している段階で、報告段階には達していない。 こうした状況から、本プロジェクトについては、基金の期限の延長を承認頂いた。既に述べたように、①~③のテーマについては、必要な作業部分は概ね完了していることから、今年度(2022年度)は、論文の執筆、成果の公表作業に注力したい。また、④の調査結果についても、できるだけとりまとめを進め、結果を周知できるよう努力する。これらに加え、消費税の変更がマクロ消費に与える影響までまとめることができれば、当初3年計画の目論見を達成できることになる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究に必要なデータベースの構築、及び、研究テーマ①~③についての分析作業は概ね完了しているため、今後は分析結果の取りまとめ、論文執筆、及びそれらの公刊に向けた作業、更には一般への周知に注力したい。 具体的には、テーマ①「我が国の所得格差の実態把握とその変遷の要因分析」について、投稿論文の査読誌への掲載努力を継続する。また、研究テーマ②「消費税の逆進性の評価」、及び③「国民一般と経済学者の認識ギャップ」については、既に作成済みの資料を研究論文(ディスカッション・ペーパー)の形にまとめ、できるだけ多くの公表機会を作るよう努めたい。もし作業が順調に進めば、これらについても、学会報告や学術誌への投稿が可能な論文に仕上げていきたい。 ④については、2021年度末に、財政赤字の理解と消費税に関する認識の関係を検証するランダム化比較実験型のアンケート調査を実施したところなので、その結果を整理し、これもできるだけ早めに公表物になるよう努めたい。 なお、本研究は、「研究成果の概要」でも述べた通り、単なる学術研究の枠にとどまらず、我が国の実際の政策運営の観点から重要な政策課題について、国民一般の理解を深めることまで意図して計画したものなので、可能であれば、専門家以外が目にする媒体等の記事でも研究内容が発信できる機会が持てるよう努力したい。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」で記載した通り、本研究はコロナ禍の影響等で遅滞しており、当初研究計画で予定していたデータの収集、及び分析作業は概ね完了しつつあるものの、公表段階にたどり着けていない。結果として、英文での論文執筆の際に必要になる校正費用や投稿費用、また学会出席時の旅費等についてほとんど執行できずに3年間を経過してしまった。 こうした状況を踏まえ、期間延長を承認頂いた2022年度については、繰越額を主として成果公表のために活用したいと考えている。 具体的に使用が見込まれる経費としては、①研究成果(公表)物作成用のソフトウェア購入、②英文校正費、③論文投稿費、④学会出席等に係る旅費、④印刷等に要するプリンタインク、用紙等文具品の購入等を想定している。
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