2022 Fiscal Year Research-status Report
戦前期日本企業の学歴に基づく所得格差:「特殊」と言われるほど大きいのか?
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19K01719
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
川村 一真 山口大学, 経済学部, 准教授 (20634736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤村 聡 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (00346248)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 内部労働市場 / 学歴による賃金格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦前の日本企業について,先行研究では学歴と社内の身分が対応する「学歴身分制」が指摘されるなど,学歴に基づく処遇格差が強調されてきた。その一方で,ミクロデータの分析が不十分であり,当時の労働者の処遇の詳細は明らかではない。そこで本研究は,企業の名簿などを用いたミクロデータを分析し,当時の労働者の処遇がどのように決まっていたのか推定する。2022年度の研究の成果は以下の通りである。 (1) 鐘淵紡績株式会社(以下鐘紡)の1937年の人事記録を用いて,学歴に基づく処遇格差の推定を行なっている。ある学術雑誌の査読を経て,2022年度は推定モデルの再検討を行うなど,再投稿のための修正を行った。
(2) 戦前から戦中の人事記録を用いて,東京市役所における学歴に基づく処遇格差の推定を行なっている。鐘紡の分析結果の一般性を検証することに加え,パネルデータである特性を生かして固定効果を含めた推定や経時的変化,特に大戦が内部労働市場にどのような影響を与えたのか分析している。2022年度はデータセットの追加を進めた上で,学会報告で得られたコメントを参考にして論文の修正を進めた。
(3)当時の鐘紡は多角化を進めていたが,様々な個人特性の影響を統制しても,関与する事業が異なれば従業員の基本給が異なる。先行研究では,多角化企業において,異なる事業の間で賃金の違いを生み出す要因として戦略の志向性が指摘されている。本研究は契約理論を用いて別の可能性を示す。具体的には,生産性の不確実性を加えた繰り返しモラルハザードモデルを考察し,経験が生産性の(ベイズ的)学習を進める結果,最適報酬が時間を通じて変化する。この理論的予測をもとに,経験の蓄積を示す事業の年齢が従業員の基本給の違いを生み出すという仮説を立てて,鐘紡データで検証した。2022年度は,以上の理論的考察とデータ分析の結果を日本労務学会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスによる行動制限が原因である。当初の計画を変更して研究を進めざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究成果のブラッシュアップを進め,2023年度は学会や研究会での発表,学術雑誌への投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の行動制限が原因である。次年度使用額は学会報告の旅費や論文の投稿料に費やす予定である。
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Research Products
(1 results)